先日、アメ横を歩いていて、裏手のほうに飲み屋街がひろがっているのに驚いた。店によっては路上に椅子を出して賑やかだ。新橋や浜松町でも似たような光景を見たことがある。若い女性や外国人のグループも少なくない。
どうも最近、飲み屋が増えているような気がするのだが、本書『東京ヤミ市酒場』(京阪神エルマガジン社)は逆に、消えゆく飲み屋タウンの紹介本だ。タイトルからして超レトロ。おいおい、そんなところもうないだろ、と思う人がいるかもしれない。
「今宵訪ねたい首都圏13カ所の、流転の飲み屋史」というキャッチがついている。ルーツは焼け跡の闇市マーケット。今もなお戦後間もないころの余韻をかすかに残している。もの珍しさでかえって人気が高まっているところも少なくない。ただし再開発など諸事情で、明日をも知れぬ運命の中にある。流転、とはそういうことだろう。
本書に登場するのは、新橋、新宿、渋谷、池袋、大井町、神田、赤羽、西荻窪、吉祥寺、溝の口、横須賀、野毛、船橋の13タウン。いずれも駅周辺の一部に昭和の雰囲気が漂う酒場密集地区がある。その一つ一つを丹念に訪ねている。
例えば大井町。今や首都圏最大級の迷路酒場の聖地だ。まるでタイムスリップ、初めて訪れた人は、東京にまだこんなところがあったのかと驚く。トイレは共同。路地をさまよっているうちに迷子になりそうだ。
地元で昭和21年から営業している洋菓子店の社長さんらに話を聞いている。地図や古い写真も掲載されているので理解が進む。加えて、細密画による街や店のイラストが、すばらしい。つげ義春さん の名作のワンシーンのようでもあり、昭和エレジーをいちだんと強烈に醸し出して郷愁を誘う。
有名な伝統店が急に閉まってしまったり、今にも消えそうな小路があったりで、確かに都内の飲み屋の盛衰は激しい。テレビで大人気の「酒場放浪記」のホームページを見ればわかるが、番組で紹介したあとに閉店してしまった店が相当ある。「流転」はこの業界の定めなのだろう。常連にとっては切なく寂しい限りだが。
本書の判型は横長でちょっと凝っている。かなりつくりこまれているので、手元に置いてゆっくり見たくなる本だ。参考文献も多数リスト化されており、さらに深く知りたい人には助けになる。ページの端々から、昭和歌謡や演歌、ブルースが聴こえてくる。
著者のフリート横田さんは1979年生まれ。文筆業にして路上徘徊家。昨年『東京ノスタルジック百景 失われつつある昭和の風景』(世界文化社)も出している。タウン誌の編集長、街歩き系ムックなどで昭和、横丁、立ち飲み屋、大衆食堂などをテーマに関連の記事を多数執筆しているそうだ。
J-CASTでは『新橋アンダーグラウンド』、『流れて、流しの新太郎』、『東京ディープツアー 2020年、消える街角』なども紹介してきたので、あわせて読んでいただければ、理解が深まるかもしれない。
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