読むべき本、見逃していない?

かつてのブラック企業が高待遇ホワイト会社に

町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由

 従業員を不当な待遇で働かせることが問題視されるブラック企業。残業なし、完全週休2日、さらに年収600万円以上となれば、それはかなりのホワイト企業だろう。神奈川県で金属加工会社を創業した吉原博さんは、そうした、働く者にとってはありがたい(?)待遇を実現して注目されるようになった経営者だ。

 「労働」をめぐっては近年、ブラック企業の告発が目立つようになり、安倍内閣は「働き方改革」の取り組みを加速させているが、吉原さんは『町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由』(ポプラ社)を刊行し、企業ホワイト化のススメ、私家版働き方改革の提案を披露している。

バブル期は残業時間1か月80~90時間

 吉原さんは1980年、30歳のときに神奈川県綾瀬市でワイヤーカット加工機を使った金属加工会社、吉原精工を創業。現在は同社会長を務めている。本書執筆時の従業員は7人で、勤務態勢は残業なしで完全週休2日、年収600万円以上が支給されている。

 同社創業前に吉原さんは3つの会社で勤務。鹿児島の工業高校を卒業した1969年に大手電機会社に就職し神奈川・川崎工場に配属され、そこでワイヤーカット加工の研究に従事した。同社がワイヤーカット加工からレーザーカット加工に軸足を移すのを機に、ワイヤーカット加工機械を扱う商社に転じて営業職に。その後、機械の販売先である金属加工会社からスカウトされ再度転職したものだ。これらの勤務経験で得たことを独立後には生かすようにし、それは「社員が喜んでくれる経営」を考えるうえで役立っているという。

 たとえば、サービス残業や手当のない早朝出勤、終業後の研修、急なシフト変更、連絡で代替えできる会議、朝礼など、不合理を感じたことは従業員に求めないよう努めている。

 だが吉原さんの会社が創業時からホワイト企業であり続けたわけではない。はじめの1年間は一人で奮闘。業績は伸び2年目を過ぎたあたりから経験者を採用するなどして社員を増やしていった。当時はバブル期に向かうところで「業務は多忙を極め、当時の社員の残業時間は1か月80~90時間」で「間違いなく『ブラック企業』だったと言わざるを得ません」と振り返る。

「名人」「達人」には排除の論理

 会社はこの後、バブル崩壊による危機、ITバブル到来による回復、その崩壊による危機と揺さぶられる。ITバブル後はリストラなどの合理化を繰り返して持ちこたえたのだが2008年、リーマン・ショックに襲われて吉原精工は3度目の倒産危機に直面した。ホワイト化に向かうのはこの後だ。

 吉原さんは3度の経営危機をとらえて、報酬面でのカット、投資の抑制をする一方、経営幹部を10人以上リストラ。「汗をかいて働いてくれる人だけを残し、少人数で再出発する道を選びました」と当時の経営決断を述べる。そして、その決断と同時に「経営を立て直したら、一生懸命働いてくれる社員にきちんとお返ししたい」と考えていたという。

 吉原精工のような加工を業務にする町工場には「名人」や「達人」と呼ばれる、高い技術を持つ職人肌の社員がいてメディアで紹介されることがあるが、吉原さんはそうした存在を好ましくないと考えるようになっていた。そうした一部の社員に対する依存度が高いと、そういう人たちが辞めたり、ライバル会社に引き抜かれたりなど有事の可能性を常に抱えることになり、有事が実際に起きれば会社に与えるダメージは非常に大きい。

 そして、吉原さんは触れてはいないが、同社にかつていた「名人」や「達人」は、吉原さんが再出発のために必要と考えた「汗をかいて働いてくれる人」ではなかったことが読み取れる。経営改革の一つとして進めたことは、その人たちを除きながらそれをバックアップするための残った全社員のプロ化。「社員全員の能力が高まることで会社の利益がアップし、社員に還元される仕組みを作りました」という。会社としての処理能力があがり、残業せず、休みをしっかりとって、相場以上の報酬を約束できるように成長を遂げた。

 3度の危機直面で、経営の多角化、収入減の多様化を図るため本業と関係のない事業に進出したこともあったが失敗を重ね、本業を突き詰めることに回帰。創業以来の「挑戦」の意気を「営業」に向ける。年末年始には神社だって初詣はこちらへとやっているのだから町工場だって―と、広告宣伝をスタート。人手に頼らないDM作戦がリーマン後の危機脱出に一役買った。現在の営業ツールの主力は営業マンなどではなく、インターネットのホームページ。メンテナンスをしっかりやって、いわゆるSEO(検索エンジン最適化)対策も怠らず集客力は大幅にアップしたという。

 吉原精工ではほかに、残業代込みの給料の採用、定年制の不採用、ボーナス100万円―などを実施し社員の士気を高めることにつなげている。本書は刊行以来、中小企業経営者、起業を志す人たちに多く読まれており、吉原さんは出版を機に講演を全国で行っているという。吉原さんことを知らない経営者のもとで働く人たちは一刻も早く、社長らに本書の存在を教えなくては。

  • 書名 町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由
  • 監修・編集・著者名吉原博 著
  • 出版社名ポプラ社
  • 出版年月日2017年12月 5日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・207ページ
  • ISBN9784591156315

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