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肉食女子は性的成熟が早い

食と健康の一億年史

 食と健康のかかわりについて関心が高まっている近年、そのテーマを扱うメディアでは百家争鳴といえる盛況で「△△には〇〇がいい」と、ある専門家が主張すればすぐさま「〇〇は△△に効果はない」という意見が聞こえてくる。「食と健康の一億年史」を探究した本書によれば、対立する意見のどちらも実は正しくて、進化の過程でヒトは、食の健康に対する効果が分化したらしい。

 著者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校で自然人類学を学び、ヒトの進化を研究。本書の「はじめに」で「その後2年間、世界各地を食物と食物に関連する疾病を調査して回り、人々が何を食べているかを自分の目で見て実際に食べ、食物生産者や健康の専門家をはじめとする、食や栄養と関わりのある人々の話を聞いてきた。すると、どの食品が健康に良いかについての健康の専門家たちの意見が大きく食い違っている理由がわかってきた」と述べている。食事の健康効果を考えたりやサプリメントを選ぶ前にまず、こちらを読む必要があるかもしれない。

昆虫がカロリー源だった時代から

 著者の食をめぐるタイムトラベルの動機は「現代に数多くの健康の問題が浮上してきたのは、祖先が守ってきた食習慣やライフスタイルを変えたことや環境の変化が原因ではないか」と考えたからだ。そして、そのスタートは「かつて人間社会の貴重なカロリー源だった」昆虫食。世界では1600種以上が食用されており、日本でもイナゴの佃煮などはよく知られ、地方によってはその食習慣が残っている。著者はアジア、アフリカの各地で、またオーストラリアなどで、なかには生きたままのものまで果敢に挑む。

 昆虫がカロリー源だった時代、人類はその特徴的成分であるキチン質を処理するための消化酵素を備えていたが現代人にはわずかしかなく、いまでは主要栄養源とはなりにくい。そうなった過程には気候の変化がもたらした新栄養源の出現があり、昆虫に代わるものは樹木に成るようになった果物だった。果物はより高度なエネルギーの供給源となるが、それだけでは体格の維持などは不可能だ。ヒトの食は時間を追ってさらに多様化に向かって進んでいく。

「伝統食を食べる」ことが大切

 近年、人物のタイプを表す言葉として「肉食系」や「草食系」という表現が定着しているが、本書によると動物性の食品には「気分をあげる効果」があり、その豊富な摂取は、女性の場合は性的成熟の早期化傾向を招くという。その分、寿命を早く迎えることに。男性の場合は肉体が強化され精子も増える。肉食はつまり、子孫繁栄をサポートするもので各地で普及を遂げている。

 一方、牛乳などの乳製品や魚は、地理的条件や気候などによっては、良い食材とはいえないよう。牛乳は複雑な成分構成からその栄養をうまく処理できないことがあり、魚はその豊富なビタミンDの効能よりも中毒などによって健康に悪い影響を及ぼすリスクがあるという。

 タイムトラベルを終えた著者のアドバイスは「伝統食を食べる」こと。祖先が食べていたものを積極的に摂ろうと推奨する。そしてもう一つは「歩くこと」。「適切な食べ物を食べ、よく歩き、あとのことはすべて自分の身体にまかせておけばいい」。

 多様化する一方の「食」。何を食べたらいいかを考えるときに指針となる1冊。

  • 書名 食と健康の一億年史
  • 監修・編集・著者名スティーブン・レ(著)、大沢章子(翻訳)
  • 出版社名亜紀書房
  • 出版年月日2017年9月29日
  • 定価本体2400円+税
  • 判型・ページ数B6判・326ページ
  • ISBN9784750515250
 

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