子供時代に祖父から「ペルーのジャングルの奥深くに黄金の都市があり、そこには沸騰しながら流れる川がある」という不思議な逸話を聞かされた少年がその後、地質学を学び伝説の真偽を探る旅に出る。科学と冒険、そこに人知では計り知れない"何か"が絡まる物語が面白くないわけがない。本書の「あらすじ」を読んだだけでワクワクドキドキの冒険物語を期待した。
「インカの呪い」「強烈な魔力を持つシャーマン」「鳥を喰らうクモ」、そして「煮えたぎる川」。実際に読み始めてみると、著者の祖父が語る伝説にはまるでファンタジーノベルのような魅惑的な言葉が次々と現れる。成長して、ペルー全土の地熱マップを作るための研究を進める博士課程の地質学者となった著者が、これらの伝説の真偽を確かめる決意をする。相談を受けた上級研究員は「馬鹿げている」「キミの評判を落とすことになる」と調査を否定する。それもそのはず、祖父から聞いた伝説の地は、アマゾンの奥地というだけで場所さえも特定できてないのだ。
まさに冒険の舞台は整った。若き研究者はこの謎にどのように挑むのか。期待に胸を膨らませて読み進めると、なんということか、伝説の場所がいとも簡単に特定されてしまう。別の野外調査で訪れた首都リマで、親しい年上夫婦宅を訪れると、その女性は煮えたぎる川を知っていた。しかも訪れたこともあるし、驚くべきことに連絡先まで知っていた。さっそくアポをとって会いに行く段取りになる。そして、若き科学者はいともあっさりと「煮えたぎる川」と対面してしまうのだ。「ええええ? まだ本書の前半部分だぞ!」――。そんな心配は無用だった。この大自然の不思議な現象を、著者は科学の力で解明しようと動き出す後半が、本書の読みどころなのだ。
恐る恐る調査を開始すると、「煮えたぎる川」の水温は落ちたら命にかかわる大火傷が確実な90度超。ほぼ沸騰している。それが長さ約6.5キロ、最大川幅25メートル、最大深さ6メートルにわたって広がっている。これだけの水量を沸騰させる原因として、著者は3つの仮説を立てる。
1つ目は、地中深くにあるマグマにより水が熱せられている可能性。だが、この地にそのような火山系がないことはすでに調査がなされている。2つ目は、この川が超巨大な熱水系に由来するもので、地球の奥深くまで染み込んだ水が熱せられて地上に湧き出ている可能性。だが、これだけの水量を沸騰させるのは奇跡に近い。3つ目の可能性は、油田事故の結果、放置された油井が水を熱しているという最悪のシナリオだ。この「煮えたぎる川」の伝説は少しも神秘性を持たないつまらないものになってしまう。本書の読みどころの1つは、著者が若いエネルギーでこれらの仮説を検証していく姿だ。
そしてもう一つの読みどころが、この地を守るシャーマンが語る自然信仰の歴史だ。科学者である著者が煮えたぎる川とシャーマンに出会い、超自然的なものを受け入れていくことで成長していく姿が伝わってくる。これが本書を魅力的にさせている最大の理由だろう。
研究と並行して著者は、この地区で深刻となってきている森林伐採による自然破壊を注視し、この川の保護活動にも積極的に取り組み始めた。では、肝心の煮えたぎる川の原因究明の研究はどうなったか――。それは本書を手にとって確かめてほしい。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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