「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。咬みません。躾のできたよい子です」
ある夜、さやかは行き倒れていた男を思わず拾ってしまい、そのまま同居生活が始まる。彼の名前は「イツキ」。イケメンで、行儀が良く、料理が上手く、植物にかなり詳しい。二人は週末ごとに、散歩やサイクリングでご近所冒険をするようになる。植物採集、料理、食事を共にしながら、互いへの思いは深まっていく。
それでも名前以外のことは聞いてはいけない気がして、さやかは知りたい気持ちを押し込めて過ごす。そんなある夜、イツキが突然姿を消した。いつまでも続かないこと、いつかこうなることはわかっていたが、夢に見ては枕を濡らす日々。さやかはイツキがいた頃をなぞるように日々を過ごし、「待ちたいだけ待とう」と決めるのだが――
前半は、散歩、料理、食事のシーンが細かく丁寧に描かれていて、後半で突如イツキがいなくなった時、より強く空しさがこみ上げる。季節とともに二人の距離が近づいていく過程をじっくりと味わい、二人が結ばれてからの甘い生活にうっとりし、二人が離れた時に涙する。
各章のタイトルは季節ごとに採集する植物の名前が付けられ、物語は進む。巻頭に植物のカラー写真、巻末にイツキの道草料理レシピが掲載されている。美しい自然、美味しい料理、甘く切ない恋愛模様が詰まった、植物図鑑だ。
作者の有川浩さんは、『塩の街』で電撃小説大賞<大賞>を受賞し、2004年にデビューした。『図書館戦争』『阪急電車』『フリーター、家を買う。』など多数の作品が映像化され、12年の『空飛ぶ広報室』は第148回直木賞候補に挙がるなど今やライトノベルの枠を超えた活躍ぶりで人気の作家だ。
本作は、角川書店の携帯小説サイト「小説屋sari-sari」で連載された後、幻冬舎から文庫版として刊行された。13年、幻冬舎創立20周年企画として、全国の読者が今いちばん面白い幻冬舎文庫を選ぶ企画「みんなの幻冬舎文庫」で1位にもなった。
16年には『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(主演/岩田剛典 高畑充希)として映画化され、大ヒットを記録した。映画は小説と違い、半年間という期限付きで同居生活が始まる。二人の恋がどう育まれ、イツキが失踪してからどういう結末へ向かうのか。小説とともにぜひチェックしたい。
(BOOKウォッチ編集部 YT)
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