離婚話がきっかけになって、過疎化が進む生まれ故郷に帰ってきた33歳の母親と10歳の長男が、あることからへき地医療に尽くす医師と知り合う。そこから物語が展開し、自宅で最期を願う患者とその願いをかなえるために最低限の治療と看取りを行っている医師のことが描かれる。過疎地の終末期医療をテーマに考えつつ、そのサイドストーリーに、それまで夫に依存しきっていた女性がたくましくなっていく様子が語られる。
物語の舞台は、京都駅から特急列車で2時間かかる宮津でバスを乗り継ぎ、さらに2時間かかる丹後半島北端の小さな町。人口の減少と高齢化が進み空き家が目立つ限界集落だ。この町を22歳の時に結婚のため出て以来11年ぶりに、内山奈緒は小学校4年の息子、涼介を連れ帰郷した。
奈緒の夫の寛之はこの少し前、ほかに好きな女性ができたからと「離婚」を言い出し、それに対する反省を促そうと、涼介が夏休みに入ったのをきっかけに2人で"家出"をしたのだった。ところが寛之には戻る気持ちなどなく、母子は、ゴーストタウン化した町で暮らすことに。
奈緒は実は、地元の高校を卒業してから3年間、京京都の看護学校で学んで看護師資格を持っており、地域の総合病院で働き始める。かつては奈緒の町にも診療所があったが、いまは閉鎖され、近隣の医療は、総合病院に勤務する、三上という若手医師の往診に依存していた。
帰郷したその日、奈緒の父、川岸耕平は涼介と車で出かけ事故に巻き込まれ、耕平がけがをして困っているところを救ってくれたのが三上だった。
奈緒は病院での勤務を通じて三上と交流を深め、彼が日々、過疎地域での医療に奮闘する目の当たりにするのだが、その一方で、心に抱えている暗い孤独の影を感じる。そして、彼がなぜへき地医療に従事しているのか、その動機が明らかにされるのだが、生い立ちと関係があることが分かってくる
。実家の隣人、高齢の女性である早川はなぜか、人生をあきらめたように生きている様子で、接しているうちに彼女の重大な秘密を知ることに...。
著者の藤岡陽子さんは1971年京都生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に入社し高校野球などを担当。97年に退社しタンザニアのダルエスサラーム大学に留学し、帰国後、執筆活動を始める一方、2001年から慈恵看護専門学校(東京・西新橋)で学び、看護師資格を取得した。現在は作家活動をしながら、京都の脳外科兼ペインクリニックに勤務している。
藤岡さんは看護師の経験で自ら生と死を常に見つめ続けているが、本書執筆に当たっては、実際に丹後地方でへき地医療に従事している石野秀岳医師を取材。週刊ポスト(2017年11月10日号)の「著者に訊け!」で「お忙しい方だし、取材は無理だろうと諦めていたら、たまたま仲のいいママ友が医大で同期だったらしく、いいよ、紹介してあげると言ってくれて。それからです、先生の活動に密着させてもらったのは」と明かしている。
藤岡さんによると、石野医師は病院勤務の傍ら、丹後半島にある京都・伊根町の診療所長を兼任。そこでワークショップを開いて"最期"についてのサポートなどについて話している。「先生は元々故郷のために医者を志した方なんですが、そこまでなさる情熱に私は興味があって、この三上を造形してきました」
石野医師の活動がどこまで本書に生かされているかは不明だが、物語は奈緒と涼介、そして三上、早川という4人の交流が心通い、読者の胸に迫る展開をみせる。
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