2012年のデビュー作『火山のふもとで』で読売文学賞を受賞するという新人らしからぬ登場以来、いつも新作を待たれている松家仁之さんの4作目が出た。2作目の『沈むフランシス』は北海道の小さな村が舞台の恋愛小説だったが、今回は北海道東部の小さな町に生きた一家三代の物語である。
なにか劇的なことが起こる訳でもない。薄荷(ハッカ)の製造会社に勤める父親と平凡な母親の間に生まれた姉、歩と主人公、始の成長を軸に物語は進む。しかし、小説は単純に三人称の時系列で書かれてはいない。時間は行きつ戻りつ、視点も移動する。登場人物が全員主人公のようでもある。
毎日新聞11月5日付けの読書面インタビューで松家さんは「想像力でもって登場人物たちが生きた瞬間に思いをはせるだけで十分だと思いました。いや、それしかできないんじゃないか、と」と答えている。
東京の大学に勤めていた始は50を過ぎ、故郷の町に帰ってくる。年老いた両親と近くに住む独身の3人の叔母たちの面倒をみることになる。将来は無限の可能性があるように輝いていた少年時代があり、自分の老いを実感しながら、他者の老いの無残さに向かい合わなければならない現在がある。
タイトルにもなっている北海道犬の飼い犬も今は何代目なのだろうか。助産婦として北海道に渡ってきた祖母がいたので、何度となく出産の場面が登場する。さまざまな生と死が静謐な筆で描かれる。「読んでよかった」。圧倒的な読後感にしばし、言葉を失った。寡作な著者の代表作となるだろう。
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