読売新聞の人気コラムニストといえば、「編集手帳」の筆者、竹内政明さん。残念ながら2017年10月3日、後輩と交代した。体調を崩し、療養に専念しているという。
その竹内さんに、元NHK記者で人気ジャーナリストの池上彰さんが、文章の書き方について教えを請うたのが本書『書く力』だ。今年1月刊。発行元が朝日新聞出版というから、ちょっと頭がこんがらがる。朝日も読売も、懐が深いというか・・・・。まあジャーナリズムはこうでなくてはいけない。
全国紙の一面コラムというのは、制約の多い欄だ。まず字数が決まっている。しかも原稿用紙で言えば、最後のマスまできちんと埋めて終わらせる必要がある。そして毎日、夕刻までの締め切りを厳守。日々の読者は何百万人もいて、注目度が高い。逆に言えば、こうした様々な制約と厳しい読者の目があるからこそ、書き手のスキルは上がる。ネットのブログなどとは、まったくプレッシャーの度合が異なる世界だ。
朝日の「天声人語」や毎日の「余録」など全国紙にはそれぞれ伝統のコラムがあるが、近年は「編集手帳」の竹内さんの評価が高かった。2001年から16年余りも書き続けていたというのは、その証拠だろう。本書の宣伝文でも、朝日新聞出版自身が、「当代一のコラムニスト」と持ち上げている。
ぱらぱらめくってみると、「まずはテーマを決める」「『誰に読んでもらうか』を意識する」「感情は抑える」「わかっていることを、わかっている言葉で書く」などの注意書きが並ぶ。
どれも当たり前のことだが、「自慢話はしない」「失敗談こそがもっとも面白い」などは、読者あってのコラムの書き手としての体験がにじみ出る。看板コラムは、その新聞の集客装置であり、広告塔。書き手はジャーナリストであると同時に、巧みな「文章芸」で読者を集めて離さない「文章芸人」でもあるのだ。
それには人並み以上の努力が必要だ。たとえば、いい文章を書き写す。竹内さんでさえ、有名になってからも、ほぼ二日に一度くらいのペースで、井上靖の「北国」と言う詩の一部分を書き写しているというから驚く。これまでに全編を30回以上も筆写したという。
10月27日の朝日新聞「新聞ななめ読み」で、池上さんが、竹内さん時代の「編集手帳」を惜しんでいる。各紙の一面コラムを比較した記事だ。すでに読売の筆者は、後任に変わっている。
10月24日付の「天声人語」と「編集手帳」を例にとる。書き出し部分の読者に「おや」と思わせるエピソードは似ているが、「天声人語」に比べると、「編集手帳」は早々と言いたいことがわかってしまったと残念がる。手口が単純すぎて芸が未熟というわけだ。
後任に変わってからの「編集手帳」を読んでいると、「もし竹内さんだったら・・・」と思ってしまうことが度々あるそうだ。後任者には「同情を禁じ得ない」、「全く違った手法で読者を楽しませる手法を開拓してほしい」と注文を付ける。
朝日新聞への寄稿文だけに、竹内さんを惜しみつつ、その後任のコラムには辛口で、相対的に「天声人語」を持ち上げるという巧みなサジ加減。はからずも池上さんの、ベストセラーを連発し、あちこちで引っ張りだこの気配りと、周到な文章術を見た。
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