日本の有名化粧品会社のパリ支社に勤務する渚詩子は三十代。宣伝部に所属し、その仕事ぶりに対する本社からの信頼は厚く、それをステップにフランスの各界に知己を増やしている。
親友になったアンヌは飛行機操縦のインストラクターなどを務め、夫は政治家。そしてアンヌの紹介で知り合った弁護士、ダニエル・ブキャナンと奇妙な再会があり、それをきっかけに、アンヌ一家、詩子とダニエル、ファミリーとカップルの関係が、それぞれに、そして相互に絡み合い、もつれ、そしてほぐれていく、さまざまな"愛のかたち"が描かれる。
詩子は商社勤務の父に同行してパリ在住の経験があり、大学ではフランス語を専攻。名人技を持つ美容師でもあり、"ファッションンの都"として知られる世界の都市の一つ、パリでいきいきする姿が描かれる。仕事にはいつも積極的だ。アンヌと夫のアラン・ラフォンとは、勤務する会社がパリ進出のため開いたイベントで知り合ったが、詩子はアランについては「ひと目見たときから厭な男だ」と思っていた。
物語が始まるのはその12年後。詩子はアンヌが飛行機操縦の教習を行っているパリ郊外の小さな飛行場に来ていた。アンヌとアランの仲は冷えており、息子のマテューもそれを察し一家には微妙な空気が覆っている。詩子とマテューは2人で食事をする機会もしばしばあり、マテューにとって詩子はよき相談相手。アンヌが教習を終え、詩子の元に来ると、飛行機仲間という男性と伴っていた。弁護士で両親は日本人だが、名をダニエル・ブキャナンという。
その後、詩子はダニエルと再会。アンヌとの因縁浅からぬ関係や、マテューの出生の秘密も分かってくる。そしてダニエルが、その名を名乗る背景には、彼の生まれ故郷の京都、さらには英仏両国で繰り広げられた愛憎劇があった。詩子とダニエルの間には、新たな愛の誕生の予感が...。
著者の女優、岸恵子さんは高校時代、作家を目指して読書や勉強を重ねていた。撮影見学をきっかけに映画界に入ったが、文筆の道を断念したわけではなかった。女優業のかたわらエッセイや紀行、自伝、小説などを出版している。
本書は傘寿を迎えてから2作目となる小説作品。三十代男女の愛の始まりとその行方、親子の愛、略奪愛、女性同士の友情など、さまざまな物語が、パリと京都を舞台に、それぞれに、あるいは絡み合いながら、ミステリーの演出を配して描かれるスケールの大きい物語だ。著者の長きにわたるパリでの生活経験がにじむ臨場感ある描写と、予想外の仕掛けやアップテンポな展開が最後まで、先を促す刺激を止めない。
舞台は「現代」なのだが、それを表現するためのスマートフォンなどIT関連、デジタル関連などの小道具が登場しなかったことに読後に気づいた。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?