テレビドラマ風に言えば、ダブルキャストの小説だ。1966年の同じ日に生まれた留津とルツが主人公。本の帯には「パラレルワールドに生きるふたりの女性」とあるが、たまたま名前の音が同じ、二人の女性の物語と思って読んでも違和感はない。
留津は中高一貫の女子中高から女子大の文学部に進む、すこしぼんやりとした子だ。
ルツは都立高校から共学の大学の理学部に進む、勉強好きの意志の強い子だ。
二人のボーイフレンドや友人らが微妙に重なるのに、二人が出会うことはない。そして、就職、恋愛、結婚など60歳までの人生のさまざまな局面が描かれている。中年の頃から、あたかも細胞分裂でもしたかのように同音異名の主人公たちが登場する。たとえば琉津、流津、る津、るつ......など。それは人生の岐路で別の判断をくだしたら、こうなったかもしれないという、もう一人の自分なのだ。「パラレルワールド」とは、そういうことだろう。
1966年生まれの女性は、男女雇用機会均等法の施行が1986年だから、女性の総合職という存在が誕生して、まだ3年目の世代だ。大学の文芸部の話題の中心は浅田彰であり、村上春樹の『ノルウェイの森』は出たばかりなのに酷評されているといった当時の雰囲気もよく捉えられている。
「不倫」というストーリーも出てくるが、それは本当に彼女らがしたことなのかどうかは定かではない。それはそういう選択をした場合のひとつの結果であり、そうではない自分もいるのだから。後半はロールプレイングゲームの様相を呈し、いわゆる小説観になじんだ人には読みにくいかもしれない。でも、あの時こうしていたらと思った自分がていねいに描かれていると思えば、楽しいのではないか。
2027年で物語は終わる。さまざまな主人公たちは、どんな60歳になっているのか。それは秘密。
芥川賞、谷崎潤一郎賞、読売文学賞を受賞している著者が日本経済新聞夕刊に2016年1月から2017年2月まで連載した長編。日経読者のキャリアウーマン、主婦、マダムたちが毎日、目を皿にして読んだことであろう。
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