著者の荒川詔四さんは、世界最大を誇るタイヤメーカー、ブリヂストンの元社長。本書の冒頭でタイトルについて触れ「四十余年にわたってグローバル・ビジネスの最前線で戦った経験を振り返りつつ、そう確信している」と宣言する。心配性で臆病な「小心者」だからこそ、周囲への配慮とリスペクトを怠らず、いざという時の意思決定に備えられるという。リーダーを志す人に贈る「小心者」のすすめ。
もちろん、単に小心であることがリーダーにふさわしいと述べているのではない。「小心」「繊細」は、リーダーになるために欠かせない素材的条件であり、それをどう生かせるかが、次のステップを決める。
「いわば、細やかな神経を束ねて図太い神経をつくる。これこそが、真に強靭なリーダーになる秘訣」と説く。「つまり、『繊細さ』『小心さ』は短所ではなく長所だということ。これらの内向的な性質をコンプレックスとして捉えるのではなく、『武器』として活かすことができる人が優れたリーダーへと育っていく」という。
企業経営者にとどまらず、世に知られた優れたリーダーらのイメージといえば、威圧的なオーラを放ち、普通の人にはできないことを大胆にやってのけるような図太さ欠かせない印象を想像させるが、外目にはそうであっても、その内面は、繊細な神経を幾層にも重ねてできあがったものなのだ。
著者はブリヂストン入社当時は、そのことでコンプレックスを抱くほど「繊細」であり、とてもやっていけないと悩むこともしばしば。しかし、様々な局面で、周囲を冷静に見渡して慎重に判断して困難を乗り越え、そのたびに神経を太くしてきたものだ。本書は、その過程を、著者が社員14万人のトップに立つまでを綴った半生記。
その出発点は、2年目に、学生時代にタイ語を学んでいたことから送られたタイ工場での勤務という。在庫管理の改革が使命であり、現地の従業員に無理をして強い姿勢でのぞんだところ猛烈な反発に遭い職場が機能不全に陥りかけた。もう辞めたいとも思いつめたが、個人で帰国するには当時の航空運賃は高くてままならず、覚悟を決めて現地従業員のなかに入って率先垂範を試みた。そして、これが受け入れられて改革が進められるようになったという。
「彼らの姿を見ながら、目から鱗が落ちる思い」をした著者。「リーダーシップとは、相手を無理やり動かすことではない。そんなことをしても反発を食らうだけ。それよりも、魅力的なゴールを示して、メンバーの共感を呼ぶことが重要。そして、メンバー一人ひとりの主体性を尊重することで、チームが自然に動き出す状況をつくる。こうして結果を生み出していくことこそがリーダーシップ。そのためには、相手の気持ちを思いやる『繊細さ』こそが武器になるのだ、と気づいた」
著者は、このあと社内で多彩なキャリアを積み、世界各地での駐在経験を経て、トップに上り詰めるまで、さまざまセクションのリーダーを務めてきたが、タイで体得した基本は「1ミリも変わらなかった」という。
週刊ダイヤモンド(2017年10月21号)「ブックレビュー」セクションの「目利きのお気に入り」で、八重洲ブックセンター八重洲本店販売課主任の真田泉さんは本書を「売れています」とピックアップ。「『トラブルの報告こそ順調さの証』という通り、小心で臆病者の繊細さと現実に真正面から向き合う肝こそがリスクへの準備を進め、信頼を育てると強調します」と紹介している。
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