世界的なピアニストには、伝説や逸話が付きまとうことが多い。米国のヴァン・クライバーン(1934~2013)もその一人だろう。
23歳のときに第1回チャイコフスキー国際コンクールで優勝し、ラフマニノフの再来と称えられる。米ソの首脳に愛されるなど、一時はカリスマ的人気を誇ったが、40歳ごろから演奏回数が減り、事実上の引退。「未完のピアニスト」とも称され、彼の名を冠したピアノ・コンクールのみが残った・・・。
本書『ホワイトハウスのピアニスト』は、政治にも翻弄された神童ピアニスト、クライバーンの波乱の生涯を気鋭の作家が追ったノンフィクションだ。ピアニストの伝記としては珍しく、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞の書評が立て続けに取り上げている。
チャイコフスキーコンクールは1958年、米ソの冷戦のさなかに始まった。その前年、ソ連は世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げ、宇宙開発では米国を大きくリードしていた。さらなる国威発揚の場とした設定されたはずのチャイコフスキーコンクール。そこで、何と宿敵・米国の青年が優勝してしまったのだ。耳のこえたモスクワの聴衆は純粋に感動して、8分間も続く満場の拍手で彼の演奏をたたえ、ソ連が誇る当時最高のピアニストでコンクールの審査員だったリヒテルは満点を付けた。
米国に帰国したクライバーンを待ち構えたのは、熱狂だった。彼のレコードはクラシックとしては異例の売れ行きを記録、国民的英雄となる。ソ連のフルシチョフ首相も彼の力量を認め、アイゼンハワーら米国の大統領にも愛されて、のちに米ロ双方から勲章を授与されている。
クライバーンは、「冷戦期に米ソ両大国の数少ない文化的な絆」(日経新聞、音楽評論家・林田直樹氏)だった。やがて彼は「洗濯機の渦の中で踊らされるように、米ソの思惑に巻き込まれていく」(毎日新聞、<広>氏)。そして「特大の才能が消費され・・・有望な芸術家を押しつぶしてしまった」(毎日)。本書には冷戦をめぐる裏面史も豊富で、「政治ドキュメントとしても読み応えがある」と現代史に詳しい川成洋・法政大学名誉教授は産経新聞で評している。
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