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その道を本当に極めた姐さんの半生記

組長の妻、はじめます。

 中学生で警察の世話になり、高校入学も1か月で退学し、その後は女ギャングの道をまっしぐら...。関西の"裏社会"で、また、警察関係者の間で、その犯罪歴の凄まじさから、知らぬ者はいないという、いわばレジェンド的な存在のこの女性が、組長の妻となるまでの半生記をノンフィクションに仕立てあげた。

 著者は「ヤクザ」を主な対象の一つにしている犯罪社会学の専門家で、組長や組員らのほか関係者に取材するなどして執筆活動を行っている。本書は、"主人公"の「亜弓さん」に「約60時間の取材と2回の郵送による原稿の加筆・訂正によりまとめたもの」という。

子どもは幼児英会話学校に

 著者が亜弓さんと初めて会ったのは、本書出版の3年ほど前、ある人物に組離脱について話を聞いている場に、その人物の妻である彼女があらわれた時だった。「その時、亜弓さんの年齢は44歳。身長は165センチくらいで、瘠せ過ぎず、太り過ぎずという体形」で「スエットの上下を着て子どもを抱いている姿は、ママさんバレーの帰りか、スポーツクラブでみかける普通の奥さん」。そして、子どもが通う幼児英会話の学校などから電話がかかってくると「そんじょそこらの奥様より丁寧な『標準語の』言葉づかいで対応」していたという。

 しばらく後に、彼女の履歴をざっと聞かされ著者はびっくり。初対面の印象とのあまりの"ギャップ"に興味を持って取材を申し込み、何度か足を運んだ末に実現にこぎつけた。

シンナー、喧嘩、覚醒剤、自動車窃盗団

 半生記は、第1章「ヤクザの家に生まれて」始まる。父親は大阪市内の在日韓国人二世でヤクザ社会の人だった。少女時代は転校を繰り返し、中学生でシンナーを覚え、喧嘩、男性関係が絡まり、クスリの道に。高校には入学したが、1か月たったところでシンナーを注意しきた教師を階段でけり落として退学処分となった。

 そしてはまったのは覚醒剤。夜の街に出かけては男ら相手に恐喝して金を調達して過ごし、プロの殺し屋との同棲を経験したという。20代になってからは、シャブ買う金欲しさに組織的な自動車窃盗に乗り出していく。「公園で木の実を拾うような感覚で」車を盗めるほどの"技術"を身に着け、後に捕まり起訴された時の台数は76、被害総額は1億円超だった。

 自動車盗と覚醒剤で刑務所を出入りする生活となり、取材の時点で計算すると人生の3分の1を、拘置所を含めて塀の中で過ごしていたことに。刑務所や拘置所では独房を好み、大したエピソードはないというが、独房ゆえに大阪拘置所では和歌山カレー事件の林真須美死刑囚の隣になる経験をした。林死刑囚は自分の房に花をたくさん置いており、香りが漂ってくることから分かったという。

 塀の外の生活もアウトローには優しくない。目をつけられているから追われることが多くなる。あるときは、逃走の車に乗り込んだ警官が目の前で発砲、拳銃が数回火を噴くのを見たという。また、覚醒剤でキメてる男が運転する車に同乗していたときには車が民家に突っ込み恥骨を骨折。しかし運ばれた病院では男が騒ぎ、激しい痛みが続いているにもかかわらず強制退院させられた。

元ヤクザの救世主、復帰して組長に

 アウトロー生活を続ける彼女を救い出したのは、かつてヤクザで当時カタギとして暮らしていた男性。やがて生活をともにするようになり子どもできた。筆者が彼女と初めて会ったときに取材していた元ヤクザがその男性だ。その後、男性はヤクザに戻り、亜弓さんは組長の妻をはじめることになる。

 週刊新潮(2017年10月19日号)の書評で、元日本マイクロソフト社長で書籍紹介サイトHONZの代表を務める成毛眞さんは「けっして笑いながら読める話でないのだが、異常に面白い。まるで深海ザメの生態やブラックホールの物理学を書いた本を楽しんでいるような気分になるのだ」と評している。

 著者は、犯罪社会学における自身の研究活動について「青少年の健全な社会化をサポートする家族社会や地域社会の整備が中心テーマ」であり、アウトローな存在とされる人たちによる犯罪の構造や仕組みについても研究を重ねている。本書でまとめた亜弓さんの証言は「簡単には得難い貴重な一次資料ともいえると思っています」と述べている。

  • 書名 組長の妻、はじめます。
  • サブタイトル女ギャング亜弓姐さんの超ワル人生懺悔録
  • 監修・編集・著者名廣末登 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2017年9月15日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・238ページ
  • ISBN9784103511915

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