3.11の数か月後に岩手県の釜石市から三陸海岸沿いに北上したことがある。東日本大震災の被災地をこの眼で確かめるとともに現地の物品を買い、ささやかに復興支援をする心積もりだった。だが、岩手県大槌町に足を踏み入れ衝撃を受けた。空襲でも受けたかのように何もなくなった市街地を見て、なにか自分の行為が不謹慎に思えた。カメラをかまえることなど出来ず、ただ車を走らせた。いま思えば、あの旅も「ダークツーリズム」だったのだろうか。
天災や戦争、大事故などの現場に足を運ぶ「ダークツーリズム」が注目を集めている。この言葉が日本で知られるようになったのは、東日本大震災の後に、思想家の東浩紀氏が『福島第一原発観光地化計画』という本を出したのがきっかけだった。そのコンセプトは一部で批判を浴びながらも、少しずつ定着した。
本書は福島第一原発の周辺、三陸海岸北部、御巣鷹の尾根、原爆ドーム、チェルノブイリ、アウシュビッツなど内外の81か所のそうした現場をライターやカメラマンらが実地踏査し書いたものである。写真集のようでもあり、観光ガイドブックのようでもあるが、対象がすべて「悲劇の現場」であるのが特徴だ。
副題に「負の遺産」ということばが使われているが、欧米には「負の遺産」という概念はないという。「遺産」には正と負の両面があり、立場や見方によって理解はさまざまなのだ。だから広島の原爆ドームの「世界遺産」指定に関してアメリカは反対した。アメリカにとって原爆は戦争終結を早め、多くの兵士の命を救った「正義」に他ならないからだ。
沖縄の戦争遺跡の一部は観光地化しているが、それを責めることができるだろうか。足を運ばないよりは運んだ方がいい。行けば心に何かが刻まれるはずだ。
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