題名になっている「涙香」とは『巌窟王』『鉄仮面』などの翻案小説で知られる明治の文豪、黒岩涙香のことである。本名は黒岩周六。一時は部数30万部を擁した東京の日刊紙「萬朝報」の創立者であり、名士のスキャンダルを暴露する報道ぶりから「マムシの周六」と恐れられたジャーナリストでもあった。さらに涙香にはもう一つ趣味人の顔があった。なかでも連珠が有名だ。「五目並べ」を「連珠」と命名発展させ、明治37年に東京連珠社を設立するなど、連珠を現在の形にした功績がある。
本作は、天才囲碁棋士・牧場智久が囲碁の試合会場で旧知の刑事に出会うところから始まる。折から殺人事件が発生、刑事とともに現場へ向かった。殺された男は囲碁をさしている最中に刺されて死んでいた。周りには碁石が散乱していたが、数が多すぎるのが不可解だった。
一方、ミステリーファンの会合で牧場は涙香研究家の麻生と知り合う。涙香の隠れ家らしい遺跡が茨城県の山中で見つかったという知らせが入り、ガールフレンドの類子と赴くが、パズル作家や編集者らと合流、そこで発見したのは48文字をすべて一度ずつ使って作った詩「いろは歌」だった。なにかの暗号なのだろうか? やがて現場では不審な事故が起き、ついに死者が出る。
本作は竹本のゲーム三部作とされる『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』に連なる遊戯への蘊蓄、執着が見られる。また新本格派ミステリーとしての密室殺人の要素、さらに牧場と類子のカップルが探偵役となる、最近の「智久&類子三部作」の魅力的なキャラクターと、竹本健治のすべてが詰まっている。「このミステリーがすごい!2017年版」の国内編1位となったこともうなずける。
巻末の竹本健治著作&ガイドも竹本の全体像を知るうえで役に立つ。
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