フジツボのペニスは体長の8倍もの長さがある、キングコブラは音叉のように二股に分かれたペニスを持っている、カワトンボのペニスには他のオスが残した精子を搔き出すためのスプーンがついている、ガガンボは自分のペニスにバイブレーターを備えている......。
本書ではさまざまな生物の奇妙奇天烈な交尾器(あまりにも奇妙で「性器」、「生殖器」とは呼びにくいものばかり)と、それを用いた破天荒な交尾が多数のイラストとともに紹介されている。だが誤解しないでほしい。本書は生物たちの交尾を面白おかしく紹介して読者の興味をかきたてるために書かれたわけではない。本書が訴えるのは、進化によって最も多様化したパーツは、脳でも口でも腎臓や消化器官でもなく、生殖に直接関わる器官、すなわち交尾器であるということだ。つまり、本書を読めば、さまざまな生物のさまざまな生殖器官のあり方を知るだけでなく、進化の多様性の不思議を学ぶこともできる。しかも、丁寧かつユーモアたっぷりにだ。
読者はおそらく、生物界ではヒトのペニスのように滑らかな形は少数派で、多くの種ではペニスにトゲがあるという事実に驚くだろう。それは霊長類においても同様で、チンパンジーの股間にもトゲが生えている。進化生物学の世界では、むしろヒトがペニスのトゲを失ったことのほうが謎とされる。トゲがあるのだから当然、雌の交尾器はそのたびに傷つけられてしまう。それでも、彼らの交尾器が現在の形に進化したのにはちゃんと理由がある。
冒頭で紹介した変わり種ペニスに加え、本書では生物たちのおぞましいセックスも次々と紹介される。例えば、カイダコのペニスは交接中に付け根から切断され、あとは自力でメスの体内に潜り込む。ナガコガネグモもペニスを交接中に切断し、交尾相手が他のオスと交尾することを防ぐ。マメゾウムシのペニスはメスの生殖器を切り裂き、傷口から操作型分子を侵入させるためのトゲに覆われている......。ペニス同様に、生物たちの複雑怪奇な交尾方法も、謎を解明するためのヒントになっている。
誤解を恐れず簡単に説明すれば、簡単に交尾を終わらせたいオスと簡単に交尾されたら困るメスとの生殖をめぐる長い長いせめぎ合い、つまりダーウィンを悩ませた「性淘汰」の結果、複雑怪奇なペニスが生まれたと本書は言う。遺伝的に優れたオスの遺伝子を残したいメスは簡単に生殖させられないように、自らの性器を複雑に進化させた。迷路のような生殖管や水門のように精子をせき止める扉などがそれにあたる。複雑になったメスの性器の進化に対抗するようにペニスは進化し、その結果、交尾方法も複雑になったというのだ。
生殖器のこうした「進化」こそが、新しい種を誕生させる原動力になるかもしれないと著者は説く。生殖器の謎を解くことは、進化の謎を解くことにつながるかもしれないというわけだ。
ところが、これほど大切な研究にもかかわらず、世間やメディアが生殖器研究者を軽んじる傾向があるという。著者はそんな風潮に猛烈に抗議している。本書の執筆理由も、そんな偏見を打破するためである。手にとって読み始めさえすれば、その面白さで、あなたの偏見も吹き飛ばされるはずだと保障してもいい。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?