「拡大自殺」は、絶望感から自殺願望と復讐願望を抱き、誰かを道連れにすることを指し、精神医学では用語化しているという。現代の代表的な例として、2008年6月の秋葉原通り魔事件などを挙げ、世界各地で起きている自爆テロもそれに当てはまるという。自殺願望、復讐願望によるとみられる事件は、頻発化傾向にあるが、流動化が強まる現代社会ではだれもがそうした状況に追い込まれる可能性があるという。
自殺者はこの10年間では大幅に減少しており、厚生労働省の統計によると、2006年に3万2155人だったものが16年には2万1897人になっている。「拡大自殺」については、こうした統計はないけれども、自殺願望あるいは復讐願望に動機とみられる殺傷事件がこのところ増えているということはいえそうだ。この10月にも米ラスベガスで銃乱射事件が起き、国内では茨城県で32歳の男が妻子6人を殺害したとされる事件が明らかになった。
本書では、復讐願望による凶悪事件の例として16年10月に神奈川・相模原の障害者施設で起きた無差別大量殺人に言及している。事件を起こした元職員の男は、施設を辞めさせられたことに対しての恨みを口にしている。こうした復讐願望を持つ心の底にあるのは絶望感。秋葉原通り魔事件で死刑が確定した男も仕事での不満や、ネットの世界で無視されたことへの怒りから自暴自棄になったという。
本書ではほかに、死刑になるため引き起こした殺人事件や警官の発砲を挑発したケースなど、近年あった「拡大自殺」の実例をさらに挙げて詳しく紹介したうえ、ケースごとのメカニズムを分析してみせる。こうした「拡大自殺」では、無関係の人間が標的にされたり巻き込まれたりすることが少なくない。病理の解明と対策が必要だ。
読売新聞(2017年10月8日付)書評欄で、本書をとりあげた作家の宮部みゆきさんは「読み進むほどに恐ろしく、この心性は意外と他人事ではないと気づけば慄然としてしまう」と述べている。
著者は、犯罪心理や心の病を構造的に分析している精神科医で、社会問題をテーマにした著作も多い。
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