久米宏さんと言えば、歌番組「ザ・ベストテン」の軽妙な司会ぶりと報道番組の新しい地平を切り開いた「ニュースステーション」での硬骨さが思い浮かぶ。さぞかし放送界にあこがれて、この世界に入ったかと思いきや、ひやかしでTBSのアナウンサー試験を受けたのがきっかけだという。
インタビューの中で「アナウンサーになりたくてなったわけじゃないということが大きく影響した」と語っている。そのTBS入社から50年目にメディアに生きた日々を回想したのが本書で、初の書き下ろし自叙伝である。
入社したものの栄養失調から結核になり、電話番しかすることのなかった新人時代、永六輔さんに拾われた「土曜ワイドラジオTOKYO」での思い出、「ぴったし カン・カン」「ザ・ベストテン」「ニュースステーション」など節目となった番組立ち上げの労苦を綴っている。
なかでも「ニュースステーション」のくだりが白眉だ。この稿を書いている筆者は「テレビ朝日が社運を賭けた」という同番組の初日を見たときの失望感をいまもありありと覚えている。生のニュース番組とのふれこみにもかかわらず、どうでもいいような季節ネタの中継が多かったからだ。失敗を予感した。案の定、視聴率は低迷し、久米さんもスタッフも苦しんだという。転機となったのはスペースシャトル・チャレンジャーの事故報道、さらにフィリピン革命が風となったという。
番組では、政治家への厳しいコメントも印象に残る。圧力もあったという。しかし、「どんな政権であろうが、それにおもねるメディアは消えていくべきだ」ときっぱり書いている。
現在は、古巣のTBSラジオ「久米宏 ラジオなんですけど」にレギュラー出演している。早すぎる自叙伝のような気もするが、親しかった永六輔さん、大橋巨泉さんが去年亡くなったことも影響しているという。放送界のフロンティアを歩いてきた人の貴重な証言が盛りだくさんで、読み応えがある。
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