もともと草食動物だった人類が肉食を始めたのはおよそ250万年前。当初は狩りをするのではなく、死肉を漁って食べていた。この食肉の習慣が、たくさんいた人属の命運を分けた。肉食に移行できなかったアウストラロピテクスなどの種は絶滅し、肉食を始めた現生人類は生き延びた。つまり、肉食が私たちを人間にしたのだ。
その秘密は脳の発達にあった。脳はほかの臓器と比べると大量のエネルギーを必要とする。生の植物食では燃費の悪い脳を発達させられなかったが、エネルギー豊富な肉食によって人間は脳を大型化させることができたからだ。狩りをするようになると、力を合わせて獲物を追う必要性や、獲物の分配で"社会性"まで発達させたという。80万年ほど前になって火を使うようになると、肉食のバリエーションも増え、栄養はより摂りやすくなった。このように、肉食あってこそ人類が進化した証拠を、これでもかと言わんばかりに並べる著者の筆致は説得力にあふれている。
しかし、肉食には多くの問題もある。本書の後半は、肉食からの脱却を試みてきた歴史と、差し迫る世界規模の肉危機について述べられる。
現在、新興国や発展途上国を中心に肉の需要が急増しており、このままでは近い将来、生産が追いつかなくなる。地球の規模では世界の肉飢餓を満たせなくなってしまうのだ。肉を生産するためには飼料として大量の穀物が必要だが、それだけの耕地面積はもはや地球にはないという。しかも、肉食は、温暖化ガスの原因の22%を占めるうえ、赤味肉をたくさん摂れば健康に悪いことも証明されている。
そこで菜食が奨励されるのだが、なぜかこれはうまくいったためしがない。ピタゴラスが菜食を勧めた時も、キリスト教のヤコブ派が菜食主義を唱えた時も、19世紀になってケロッグやグラハムなどがベジタリアン運動を推し進めた時も、結局勝利したのは肉食派だった。そして現在も、先進諸国には多くのベジタリアンがいるように思えるが、彼らの多くは自分の中の肉飢餓と戦っている。ベジタリアン向けに模造肉が開発されるのは、彼らの肉食への内なる欲求が消せないからでもある。
これはなぜか。多くは文化的偏見によるものだと著者は言う。つまり、人類にとって肉食は、男らしさや権力、富の象徴として、今も生きているからだ。とはいえ、肉食から菜食に転換しない限り、人類に未来はない。それは確実な未来である。
本書は人類の肉食への愛についての長い物語だ。結論はまだない。愛し方を考え直せば愛は続くが、今のまま愛し続ければ必ずその愛は終わりを迎える。さて、あなたはどのような愛し方をするべきだと思うかと問いかけている一冊だ。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?