本書が取り上げた事件があったのは2014年3月。埼玉県川口市でともに70代の夫婦が殺害されているのが見つかった。その後、しばらくして、孫が強盗殺人容疑で逮捕された。当時17歳の少年は裁判で懲役15年の判決を受け服役中。近年、高齢者が襲われる事件はしばしば報道され、孫が祖父母を手にかけることも少なくない。この事件も世間では「素行のよくない孫がまた...」などと受け取られたようだ。ところが、公判などで詳しいことが分かってくるうち、ただの「金目当て」ではなかった背景が浮かぶ。本書では、それら背景の事情を丹念に掘り下げ「真相」を明らかにしている。
著者は毎日新聞記者。事件発生の年から同紙のさいたま支局に勤務し、警察・裁判を担当。同事件の裁判員裁判をすべて傍聴取材し、さらに関係者らにも取材を重ね、服役中の少年と面会や手紙のやりとりを行うなどして本書を上梓したという。
取材の過程で明らかになったことは、少年の育った環境があまりにも過酷で常軌を逸したものだったということ。実母と養父から身体的・性的虐待を受け、小学5年生からは学校に通うこともできず各所を転々とし、公的機関に保護されることもあったが、拘束を嫌がった母親と行動をともにして逃亡して野宿をせざる得ないことも。
母親はまったく働く気がなく、依存する男がいなくなると、少年を稼ぎ手として頼った。そして母親は遊興に金を使い尽くすと少年に、祖父母のところで金を借りて来いと指示。この時、殺してもいいからと言ったとされるが、母親は殺人を指示したことを否定。証拠もなかったので母親は強盗罪で裁かれ懲役4年6月の判決を受けた。
少年は生活費の工面をする一方で、13歳下の妹のために食べ物を用意したり、移動時には抱きかかえ、親に代わって愛情を注ぎ暮らしていたという。少年は刑務所のなかで、自分より早く社会に復帰する母親が妹とどうかかわるようになるのかを心配しているという。
本書には、著者に勧められて少年が寄せた「手記」が付されている。「自分が取材を受ける理由は世の中に居る子供達への関心を一人でも多くの方に持っていただく為の機会作りのようなものです」と、冷静に振り返っている。
評者の書評家、東えりかさんは「逮捕後に勉強したという几帳面な字で書かれた文面に心打たれる。社会復帰した際の彼の希望をぜひ叶えてほしいと思う」と述べた。
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