ヤクの売人ギャングと何年も生活をともにして得た情報をもとに、シカゴのアングラ経済を研究した前著『ヤバい社会学』は大ベストセラーになった。その社会学者の著者が挑んだのは巨大都市・ニューヨークの地下経済の調査だった。
著者のスディール・ヴェンカテッシュは前著と同様に、ヤクの売人や売春婦、デートクラブ経営者と行動を共にして信頼の絆を作ることで、裏社会の調査を進めていく。しかし、その手法には限界があった。シカゴは「ご近所が集まってできた街」だったが、ニューヨークは「移ろい続ける街」でシカゴ方式の調査方法を改める必要があった。裏社会と表社会が交錯する街では「地域」ではなく「移ろいゆく人」に焦点を当てる必要があった。
著者はヤクの売人との交流を入り口として、10年間もの長い期間にわたり売春婦、デートクラブ経営者、慈善活動家などの間をたゆたい、出会いと別れを通じてニューヨークの裏社会と表社会の交錯する姿を掘り下げていく。
社会学者の著書というと、あちこちから恣意的に統計データやアンケート結果を拾い、自分の主張を立証するご都合主義的なものが多いと思い込んでいた。だが本書はこれまで読んだ社会学者の本とはまるで違う。ニューヨークの裏社会の人々の悩みに人間として向き合いつつ、社会学者としてそれを「面白い情報」と感じる自分のアンビバレンツな心情が、痛いほど伝わってくる。また、あまりに調査にのめりこみすぎて自分の家庭が崩壊しかけて悩む自分の姿や、自分が信じる調査手法は社会学足りうるのか悩む心情も生々しく吐露されていて、まるで壮大なノンフィクションを読んでいるかの気持ちになる。
それもそのはずだ。あとがきで著者は、この10年の調査の軌跡を社会学として発表するのではなく、本書のように社会調査で起こった出来事を回顧録として発表した。結果として出来上がった本作は、そんじょそこらのノンフィクション作家やルポライターには決して真似できない、ディープな世界を覗き見た優れたドキュメンタリーに仕上がっている。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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