物語は、米東海岸北部、マサチューセッツ州のリゾートアイランド、マーサズ・ヴィンヤード島から始まる。8月下旬のある日の夜の空港。メディア王、デイヴィッド・ベイトマンがチャーターしたプライベートジェット機が午後10時の離陸を待っている。客席は9席、乗員は3人。目的地はニューヨークだが、1時間ほど予定されていたフライトの途中で大西洋に墜落する。
優れたミステリー作品に贈られる文学賞「エドガー賞」の2017年度受賞作。登場人物は多いが、それぞれの発言を多く書き込むなどキャラクター描写が立体的。筋がぶれずドラマが濃密に仕立てられている。
著者のノア・ホーリー氏はこれまで、作家としてより映画やテレビ番組のプロデューサー、脚本家としての活躍が知られる。小説は本書が5作目という。
墜落した飛行機の乗客のうち、ベイトマンの妻、マギーの誘いで同機に便乗した画家、スコット・バローズと、ベイトマン夫妻の息子、JJが九死に一生を得る。事故の"証人"である2人には全米の注目が集まるなか、物語は、事故の背景に関係があると思われる、乗客や乗員一人ひとりの墜落にいたるまでの足取りを追う。
離陸前のシーンを描いた序章で、その後のサスペンスの伏線が数々配されている。克明な人物描写は機長、副操縦士、客室乗務員にも及び、読んでいると、この人たちに、そこまで細かく要る?と、その時は思わせるのだが...。
こうした描写は、事故を調査する国家運輸安全委員会(NSTB)を中心としたグループのメンバーにも施され、墜落事故を軸に現代の米社会が多層的に描かれる。評者のコラムニスト、香山二三郎氏は「アメリカ現代社会の縮図ともいうべき狂騒劇とスリリングな航空機事故サスペンスとを見事に合体させた、文学色も濃厚な社会派ミステリーだ」と述べている。
文庫(上・下)も同時発売。上下ともに本体690円+税。
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