本を知る。本で知る。

この作家だから書けた「東芝」の深層

病巣

 東芝がウェスチングハウス(WH)を買収するというニュースを耳にしたときのことは今もよく覚えている。
 日本の老舗メーカー東芝が、超有名な米国の大企業を飲み込む。原発でその名をとどろかせたWHを傘下に収めて世界の東芝になる。日本もついにここまで来たかと感慨を新たにしたものだ。

ストレートに「東芝」を連想

 あれから約10年。事態は思わぬ方向に進んだ。WHは実は巨大な不良債権だった、名門東芝は巨額損失を抱え、あれこれ手立てを尽くしたが、にっちもさっちもいかなって倒産寸前だというのだ。日本を代表する巨大電機メーカーが、得意の絶頂で高転びしている。どうしてこんなことになったのか。
 東芝に関連する本の出版がこのところ引きも切らない。いまやビジネスの世界で最大の関心事となっているからだろう。
 本書もその一つ。実録ではなく小説である。「巨大電機産業が消滅する日」というサブタイトルが付いている。主人公のつとめる会社は「芝河電機」となってはいるが、「利益操作、粉飾決算、原発企業の巨額損失――はたして再生の道はあるのか?」と言う帯文を見る限り、ストレートに「東芝」を連想せざるをえない。

ドロドロが渦巻く

 著者は数々の経済小説、企業の内幕もので知られる江上剛氏。旧第一勧銀(現みずほ銀行)時代は広報部長もつとめ、97年の「総会屋利益供与事件」ではマスコミ対応の最前線で奮闘した。その後、作家に転じ、金融不祥事事件での凄惨な実体験をベースに『非常銀行』『腐食の王国』『怪物商人』などビジネスの世界を題材にした多数の著作で人気を博してきた。
 東芝問題は、単に海外戦略に失敗したというだけではない。老舗・名門にありがちな慢心とおごり、社長、次期社長らの激しい権力争い、次期経団連会長ポストへの思惑、霞が関、丸の内が入り乱れた駆け引き、思いがけない裏切りなど、戦国時代さながらのドロドロが渦巻いている。
 歴代社長の立件については、まだはっきりしない。というわけで実録では書きにくいところがある。だらこそ、想像力で内幕と核心に踏みこむ小説の出番だ。多数の人物が登場する300ページを超える大作。「現実よりリアル」と銘打っているだけあって、細部にまで説得力がある。主人公は2002年入社の若手社員という設定なので、20代、30代のビジネス人間も手に取りやすい。

  • 書名 病巣
  • サブタイトル巨大電機産業が消滅する日
  • 監修・編集・著者名江上 剛  著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2017年6月20日
  • 定価本体1,600円+税
  • 判型・ページ数四六判・並製・376ページ
  • ISBN9784022514752

オンライン書店

 

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?