単行本が出たときに何かの書評で見たのだろう。高知にオーナーが手作りで建てた変なマンションがあるらしい、と。その後、忘れていたが、8年後に文庫本となったときに、買い求め、以来何度も読み返している。
沢田マンションは高知市に建つ、地下1階、地上6階、約60戸の賃貸マンションだ。オーナーの故・沢田嘉農さんと裕江さんが1971年から、度重なる増改築を繰り返し、いまなお進化しつづける異形のマンションである。いくつも「沢マン」を紹介する本が出ているが、本書は建築家の著者が芝浦工業大学の学生チームとともに何回も現地調査を行い、多くの立面図、平面図、写真をもとに、「魔窟」のような得体のしれない「沢マン」を白日のもとにさらしたのがすごい。
日本版サグラダファミリアともいわれる物件だ。4階に釣り堀、5階に水田が広がり、5階まで車で行けるスロープまであるのだ。美術家の奈良美智は「まっことアナーキーな建物ぜよ!」と帯でアジっている。
建物もすごいが、暮らす人たちもまた都会では考えられないほど、柔軟な人たちが多い。部屋が漏水したので修理を頼んだら、うまく直らないので代わりに別の部屋に引っ越した人もいる。より自分にフィットした部屋があれば、マンション内で引っ越しを繰り返す人が多いというのだ。
「家は一生もの」という考えに日本人は縛られているのではないか。もっと自由に暮らし、生きていけるのではないか。オーナーの沢田夫妻は、自分たちで作り、売り、引っ越して、また作りを繰り返してきたという。豊富な図版と写真を眺めていると、南国のさわやかな風と生き方が伝わってくる。(ブックウオッチ編集部 JW)
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