「うつ」で休職を余儀なくされた人の職場復帰率は、2割程度に留まっています。それだけ回復が難しいのがこの病です。では、なぜこれだけ治りにくいのか。それは、病態や原因を軽視した症状のみでの診断と、薬にばかり頼った治療が施されていることに尽きます。
まず「うつ」の原因を追求することが重要です。生まれつきの過敏性や機能不全家族のなかで培った考え方や生き方にその原因はないでしょうか。職場でのストレス・マネジメント力をもっていますか。生まれてから現在に至るまでを順次検証していけば、その原因に行きあたります。
原因が栄養欠乏症の場合もあります。現在では、鉄、たんぱく質、ビタミンB6、ナイアシン、葉酸(ビタミンB群のひとつ)の欠乏が脳の機能を低下させ、「うつ」を引き起こすことがわかっています。この場合の治療は、食生活の改善やサプリメントの摂取など栄養療法になります。
「うつ」で最も多いのが、脳機能不全型うつ病(ストレス消耗性うつ病)です。長期にわたるストレスがこの病を引き起こします。そもそもストレス過多になるのは、感情コントロールがうまくいっていない証拠です。嫌な感情を引きずらないようにするためには、愚痴や相談など「言語化してみる」、「体を動かしてみる」等が効果的です。運動は自然治癒力を高めるといわれ、廣瀬医師も“こころ”に効く運動を「運動精神療法」と呼び推奨しています。なかでもキックボクシングは、手も足も使う全身運動で非常に効果があります。
最後に復職率アップのためのリワークプログラムも紹介しています。患者の心的エネルギーを算出し、その値に沿った無理のない勤務時間を設定するものです。回復途上での無理が再発を招きます。「うつ」への心がまえとして重要なのは、「うつは心の風邪ではない。こころの大腿骨骨折」という認識です。あせらず時間をかけて治すのが遠回りのようでいて、じつは近道になります。
【廣瀬久益 ひろせ ひさよし】
精神科医。水戸市と新宿区でクリニックを開院。当初から集団精神療法を展開(機能不全家族の親の会、不登校・引きこもりの会、社会復帰を目指す人の会など)。地域精神医療にも大きく貢献(茨城県国保連合会レセプト委員、同中央児童相談所嘱託医など)。2003年から運動精神療法と分子整合栄養医学を精神科医療に取り入れ、すでに約1万例の、統合失調症患者及び各種難治例の患者(うつ病、不安障害、強迫性障害、不登校、自閉症、発達障害、チック症、認知症など)を回復させている。うつ病の治療では、個人外来診療と集団精神療法でリワークプログラムを展開し、完全復職率9割という驚異的な成果を上げている。数年前から始めたYouTube「ドクター講話」は再生回数150万回を超える。うつ病と鉄欠乏の関係がNHK「ためしてガッテン」でとり上げられたのは、「ドクター講話」がきっかけだった。
http://hirose-clinic.net/ 書名:完全復職率9割の医師が教える うつが治る 食べ方、考え方、すごし方
著者:廣瀬久益
発売日:2015/1/22
定価:本体1500円(税別)