ヒトラーがウィーン時代に描いた絵画作品が1月29日にスロバキアのインターネット・オークションに掛けられて3万2000ユーロ(約323万円)で落札された、というニュースが先日流れました。
ヒトラーは17歳の時に画家になる夢を抱いてウィーンに“上京”。しかし、造形美術アカデミーの受験に二度、失敗し、一時は浮浪者収容所に身を寄せるほどの「負け犬」でした。
ヒトラーの異常性は、そんな落ちこぼれだったウィーン時代に形成されていったものと考えられます。日本人にはなかなか理解し難い、ヒトラーの凄まじい「ユダヤ人憎悪」も、背景にある彼の過剰な「健康志向」や「潔癖症」的傾向も、その根はウィーンにあるのです。しかし現在、ウィーンからヒトラーの痕跡はきれいさっぱり消されています。
その痕跡をあぶり出すべく、『ウィーン愛憎』や『ウィーン家族』などといった著書を持ち、ウィーンの街と関わりの深い哲学者である中島義道氏が、ウィーンがヒトラーに与えた影響を追ったのが、『ヒトラーのウィーン』です。
アドルフ・ヒトラーという不世出の特異極まりない「怪物」を生んだ歴史的背景を、著者独特の哲学的考察も交えながら、様々な視角から検討しています。ヒトラーの心理や置かれた情況を、みずからのウィーン体験と重ね合わせながら描くところも、この著者ならではのスタイルであると言えるでしょう。
『ヒトラーのウィーン』 関連情報はこちらヒトラーのウィーン
中島義道 著
1575円(定価)
新潮社