「自傷」という言葉が一般化して久しい。それだけ、珍しいことではなくなったということか。本書『自分を傷つけてしまう人のためのレスキューガイド』(法研)は、そうした自傷行為からどうやって抜け出すかを記したガイド本だ。
監修の松本俊彦さんは1967年生まれ。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の薬物依存研究部部長、同センター病院薬物依存症治療センター長などを務めるこの分野の専門家だ。類書も何冊かある。
自傷というのは、一般的には自分で自分を傷つけることとされる。リストカットが有名だが、そのほかにも、コンパスや筆記用具を使うなどいろんなやり方があるようだ。たいがいは密室で、隠れて行われているから表に出にくい。公的な調査では、自傷発生率は中学生で0.37%、高校生で0.33%とわずかだが、松本さんたちの研究グループの推定によると、中高生の男子で3~5%、女子で10~17%と跳ね上がる。つまり「隠れた自傷」が相当あるということを示している。
本書では自傷について、直接的なものだけでなく、間接的なものも含めている。過食や拒食などの摂食障害、アルコールや薬物依存・乱用、バイクで暴走などの行為だ。これらは、時間をかけて、結果的には自分を傷つけてしまう行為だからだ。しかも直接自傷と間接自傷は、別々のように見えて関連していることが少なくない。つながりがあり、併発することもある。
共通するのは、こうした自傷行為の多くが、「心の痛み」に起因しているということだ。虐待、家庭や身近な人とのディスコミュニケーション、いじめ、孤立、不適応など。そうした事態を自分で解決できず、つらい問題から目をそらすために、やっと見出した手段が自傷であることが多い、と指摘する。したがって、直接・間接の自傷の奥にある問題に目を向けること、そこに解決の糸口があると分析する。
本書では自傷の様々な例を説明しつつ、医療機関とのかかわり方などを示す。興味深いのは「こんな精神科医は疑問?」という一節が設けられていることだ。具体的には以下。
・自傷したことを叱責する
・頑固で思い込みが激しい
・依存性の高い薬をためらいなく処方する
・パソコンばかり見て患者を見ない
逆に「よい精神科医」とはこんな人だ。
・患者の話によく耳を傾けてくれる
・仲間が多い
・適度の経験を積んだ中堅の精神科医
そして「一人の医師に依存しすぎない」ということを勧める。「どうも相性がよくない」と思ったら、いつでも転院できると考えようと。
医師との関わり方で理想的なのは、悪いニュースでもざっくばらんに話せることだという。「先生、今週も手首切っちゃった」と言えるかどうか。松本さんは、何でも気軽に話してくれるほうが継続的な治療を行えると話す。
精神科医は短い持ち時間の診断で、患者がしばしば心の奥深くに隠している、他人に言いたくないような悩みに付き合う。 きわめて厄介な仕事だと思う。真面目に取り組めば取り組むほどしんどい。患者との真剣勝負の一端は、本欄で紹介した『死を思うあなたへ』にも描かれていた。本書の扉に監修の松本先生の写真が掲載されているが、信頼感あふれる風貌だ。人気があるに違いない。転院する患者はいないだろう。むしろ依存されすぎて大変ではないだろうかと心配した。
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