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断れず135万のサプリを購入してカード地獄に。散財グセのある人が持つべきたった1つのものとは?

発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法

 発達障害、とくにADHD(注意欠如・多動性障害)気質を持つ人には「衝動性」や「共感性」を持つ人が多いとされる。後先を考えない衝動性と、セールスを断りにくい共感性が合わさると、かなりの散財グセが身についてしまいがち。中には、破産寸前までお金を浪費してしまう場合もあるという。この特性、どうにかならないものなのか......。

 そんな発達障害を持つ人の悩みに解決のヒントをくれるのが、中村郁さんの『発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法』(秀和システム)だ。

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 声優・ナレーターとして活躍する中村さんは、自身もADHD・ASD(自閉スペクトラム症)と診断され、発達障害の当事者として生きてきた。本書では、中村さんが人生の中で見つけたちょっとした工夫や考え方が、生きるためのヒントとして紹介されている。

 BOOKウォッチでは、3つのヒントを抜粋してご紹介! 実体験に基づいた、中村さんの含蓄ある言葉の数々に触れれば、あなたの悩みの助けになるかも......?

 第1回は、ADHD特有の衝動性と、それをコントロールする方法を見ていこう。

(以下、本文より)

腕時計は「いいもの」を一つ

 ADHDの特徴の一つとして「衝動性」があげられます。
 私は、ふだんはお財布のひもは固いほうなのですが、そのひもはある日突然、前触れもなく解かれます。
 信じられないほどの散財をしてしまうのです。
 共感性が高いので、友人にエステのコースをすすめられれば契約してしまいますし、友人がデザイナーをつとめるブティックに行けば、友人が私のために「これが似合うよ」とすすめてくれたものは、すべて買ってしまいます。

 友人でなくとも、店員さんに笑顔ですすめられると、断ることができず、「これ本当に要るかなあ......」と思うものでも、断れずレジへと進んでしまいます。
 発達障害を持つ私たちは、情にもろいところがあります。

 私は、同じ人に何度も傷つけられることもしばしばあります。それでも人を信じて、135万円の効きもしないサプリメントを買ってしまったこともあるほどです......。
 若いころはこれにより、カード地獄におちいり、カード会社のブラックリストに入れられてしまいました。
 落ちるところまで落ちて、ADHDの衝動性のおそろしさを痛感した私は、買うものと買わないものを、しっかり判断することを心がけるようになりました。

 そんな私が、散財グセと完全におさらばするきっかけになった買いものがあります。
 腕時計です。
「かわいいなー」 「これ欲しいなー」と、軽い気持ちで選ぶのではなく、自分が本当に心から欲しいと思うものを選びました。一生使う覚悟で。
 時計を変えるだけで、人生が変わりました。
 それは、さながら「ライナスの毛布」のように、私を支えるお守りとなりました。

 私は新人のころ、スイス製ラグジュアリーウォッチ「Chopard」の新作発表会の司会をさせていただいたことがあります。
 当時の私は、高価なChopardの時計を一つも持っていませんでした。司会者がChopardの時計をしていないのはおかしいので、司会をさせていただいているあいだだけ貸してもらい、身につけさせていただきました。
 時計のなかで、ダイヤモンドがキラキラと輝いていて「なんて美しいんだろう......」と見とれてしまいました。
 このとき、ナレーターの仕事1本で食べていけるようになったら「Chopardの時計を買おう」と心にちかいました。
 その日から10年後、私はChopardの時計を一括払いで買いました。

 時計は一日のうちに何度も目にするものです。目にするたびに、私はとても幸せな気持ちで満たされます。これまで仕事をがんばってきた自分を愛しくさえ思えます。
 そして当然のことですが、この時計を身につけるようになってから、ほかの時計を一つも購入していません。今後一生買うことはないでしょう。

 この時計と出会う前は、何度も時計を買いかえておりました。
「あ、かわいいな」と思って衝動的に買い、また別の時計がかわいく見えて......を繰り返し、結果、今の時計と同じくらいの額を散財してしまっていました。
 不思議なことに、私が所持するもののなかで、この時計だけは一度もなくなったことがありません。
 大切なものを置く場所にいつもきちんと鎮座しています。
 また、時間の管理の仕方も、この時計を手にする以前に比べて、格段に進歩しました。
 ウキウキとした気持ちで、この時計を身につけた瞬間、時間管理できる自分に生まれ変わるのです。お風呂に入るときも眠るときも、肌身離さず持っていたいくらいです。

 私の場合は時計でしたが、あなたも、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、思い切って「一生のおとも」といえるお気に入りのものを購入してみてください。
 そうすれば「ものがすぐになくなってしまう」私たちが、普通の人たちがすごす「ものがなくならない」世界の片隅に、足を踏み入れたかのような感覚を味わうことができます。
 大切なものをなくさない自分に、胸を張ることができるのです。

(以上、本文より)

 次回(8月3日配信予定)は、ADHDの人が苦手とする「雑談」について考える。


■中村 郁さんプロフィール
なかむら・いく/ナレーター、声優 (株式会社キャラ所属)。
生後すぐ、家庭の事情で祖父母に育てられる。幼いころより体が弱く、癇癪や、過剰に集中しすぎてしまう「過集中」、物忘れがひどく、ぐちゃぐちゃな毎日を送る。10歳で祖父が他界後、祖母と二人三脚の日々を送ることになるが、毎日涙を流し続ける祖母を励ます生活に自分の心も壊れてしまう。大学受験では過集中がプラスに働き、偏差値40を70まで上げて志望大学に合格するも、入学後は華やかな学生たちに馴染めず、人間関係も思考もぐちゃぐちゃに。 アルバイトも、ADHD気質が災いし、すぐにクビになる。
そんなとき、ナレーターの道をすすめられ、大学卒業と同時に現在の事務所に所属。ここでも過集中がプラスに働き、人の声が聞こえないほど集中するので、まったくかまずに読める。何かに没頭すると徹底的に調べまくる。さらに、表現力・国語力の高さが評価され、数々のオーディションに合格。プロとなって20 年間、産休以外で一度も仕事を休んだことがない。現在も、全国ネットのナレーションに多数出演し、複数のキャラクターで声優をつとめている。


※画像提供:秀和システム

 
  • 書名 発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法
  • 監修・編集・著者名中村郁 著
  • 出版社名秀和システム
  • 出版年月日2023年7月11日
  • 定価1540円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784798069654

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