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神は普遍なのか? 牧師が"本当の幸せ"を見つめ直した本

Hariki

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ピダハン

 「伝道」とは何かを、牧師が考え直した本とは?

 東京都北区の王子北教会の牧師・沼田和也さんは、信者である人もそうでない人も対象に悩み相談を受け付けている。「神の外側があるかはわからないけれど、『キリスト教』の外側はあると思います」。そう語る沼田さんに"響いた本"をうかがった。

沼田和也さん
沼田和也さん

 「また?」と言われるほど教会でよくお話ししているのが、『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』(みすず書房、屋代通子 訳)という本についてです。著者のダニエル・L・エヴェレットさんはアメリカの言語人類学者で、キリスト教の熱心な伝道者でもありました。

 ピダハンはアマゾンに住む少数民族です。昔から宣教師たちが伝道しに行っているのに、彼らはなんでか改宗しないんですよ。周りの他の民族は次々と改宗しているのに。エヴェレットさんは、1977年にピダハンのところにやって来ます。

 彼らの言語には、「右と左」もないし、色の名前もないし、数字もないんですよ。幼少期に一緒にピダハンのところへ行っていた息子のケイレブ・エヴェレットさんが、のちに、言語と数にフィーチャーした『数の発明 私たちは数をつくり、数につくられた』(みすず書房、屋代通子 訳)を書いています。

『ピダハン』(左)、『数の発明』(右)
『ピダハン』(左)、『数の発明』(右)

 数字がないということは、暦がない。歴史がない。複雑な神話がない。エヴェレットさんの話を聞いても「キリストってどんな顔してるの? 会ったことあるんでしょ?」みたいに聞いてくるわけですよ。遠い過去という発想がないですから。「いや、昔の人だから会ったことがない」と言うと、笑われるんですって。「会ったこともない人を信じるって、なんじゃそりゃ」と。

 ピダハンの人たちはすごく陽気で、過去のことも未来のことも考えなくて、自死なんていう概念はない。暮らし方もテキトーで、一日中おしゃべりして夜ふかしして昼まで寝てたりするんです。一方でエヴェレットさんにはいろんな不安や心配事があって、神にすがっている。「キリスト教は普遍だ、全人類が信じるべきだ」と思っていたけれど、本当にそうか? と思うわけです。だって、彼らのほうがよっぽど幸せそうだから。そして、エヴェレットさんは結局、1985年頃に棄教するんです。

 私にとっては、「キリスト教を他人に伝える」とはどういうことなのかという根源的な問いを突きつけられるような本でした。

私もタヌキと変わらない

 私は以前、ある海辺の町で牧師として働いていたんですが、道路にタヌキとかカニとかがうろうろしていました。彼ら、車に轢かれてすぐ死ぬんですよ。黙って生きて、黙って死んでいく。私だけがあれが嫌だ、これが嫌だとギャーギャー言いながら生きているわけです。

 日曜日は教会で「神と人間」だけの話をするんですが、平日はタヌキが黙って轢かれて死ぬのを見る。見ているうちに、私が悩み事をブツブツ言うのも自然界では鳴き声くらいのものにすぎないと思うようになったんです。私は人間だけの世界だと思ってギャーギャー言いながら生きているけれど、決して人間が世界の中心ではないんですね。というか、中心はないんです。そういう感覚を抱いていたところで、のちに人類学というのを知って、すっきりと言語化してもらったような気分でした。

 そのことを、奥野克巳さんという人類学者の方に言った時、フッと笑って「棄教しないようにね」って言われたんですよ。「棄教した人類学者もいるからね」と。多分それはエヴェレットのことだったんじゃないかと、今となっては思いますね。


 それでも棄教していない理由は「自分でもわからない」と言う沼田さん。最新の著書『弱音をはく練習』(KKベストセラーズ)では、精神科に入院した過去や、相談に来る人々と向き合い葛藤してきたことを、牧師であると同時に一人の人間としてつづっている。著書に込めた思いをうかがったインタビューもぜひチェックしてほしい。

『弱音をはく練習』(KKベストセラーズ)
『弱音をはく練習』(KKベストセラーズ)

■沼田和也さんプロフィール
ぬまた・かずや/日本基督教団 牧師。1972年、兵庫県神戸市生まれ。高校を中退、引きこもる。その後、大検を経て受験浪人中、1995年、灘区にて阪神淡路大震災に遭遇。かろうじて入った大学も中退、再び引きこもるなどの紆余曲折を経た1998年、関西学院大学神学部に入学。2004年、同大学院神学研究科博士課程前期課程修了。そして伝道者の道へ。しかし2015年の初夏、職場でトラブルを起こし、精神科病院の閉鎖病棟に入院する。現在は東京都の小さな教会(日本基督教団王子北教会)で再び牧師をしている。著書に『牧師、閉鎖病棟に入る。』(実業之日本社)、『街の牧師 祈りといのち』(晶文社)がある。ツイッターは@numatakazuya


※取材協力:KKベストセラーズ


   
  • 書名 ピダハン
  • サブタイトル「言語本能」を超える文化と世界観 DON’T SLEEP, THERE ARE SNAKES
  • 監修・編集・著者名ダニエル・L・エヴェレット 著、屋代 通子 訳
  • 出版社名みすず書房
  • 出版年月日2012年3月22日
  • 定価3,740円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・416ページ
  • ISBN9784622076537

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