本を知る。本で知る。

突然の「鉄砲水」で死なないためのテントの張り方

これで死ぬ

 2023年7月19日に発売された羽根田治さんの新著『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』(山と溪谷社)は、アウトドアで実際に起こった死亡事例を紹介し、どうしたらそのような目にあわないか、身を守るための安全知識をしっかり解説したもの。今回はその中から、水場で遭遇する「鉄砲水」についての死亡事例を紹介しよう。

book_20230719161722.jpg

 取り上げられているのは、2010年8月中旬に北海道の日高山系で起きた遭難事故だ。合宿のため入山した大学ワンダーフォーゲル部の男子学生4人パーティが、中ノ川支流の六ノ沢川二股にたどり着いてテントを張った。適切な場所を選ぶ余裕がなかったため、河原に幕営したが、増水への警戒は怠らなかったという。

 しかし、夜8時半ごろ、沢の水音が急に大きくなったかと思うと、突然テントが流され、4人は水中に投げ出されてしまった。ひとりはなんとか岸までたどり着き、翌日、沢を下りながら仲間を見つけては河原に引き上げたが、3人とも命は助からなかった。 日高山系では、事故当日までにまとまった降雨があり、沢が短時間に増水して鉄砲水が発生したと見られている。

 鉄砲水とは、非常に急激な出水を指す言葉だ。天然ダムの崩壊や集中豪雨によってもたらされ、急に川の水が何倍、何十倍にも増えて下流を襲う。普通の洪水とは違って、だんだん水かさが増えてくるというものではなく、まるで鉄砲の弾のように突然襲いかかってくるとされる。そのため、いかに山慣れしたワンダーフォーゲル部員たちであっても、いったん巻き込まれると対処のしようがない。このケースでただひとり生還した学生は、「(鉄砲水の襲来は)あまりに急で、対処しきれなかった」と当時を振り返っている。

 では、鉄砲水で死なないためには何に気をつければいいのか。川辺でのキャンプは水の流れてこない高台にテントを張るのが安全だという。また、増水時に逃げ場がなくなる中洲への幕営は厳禁だとされる。

book_20230719161705.jpg

 このほか本書では、ころんで死ぬ、ダニに噛まれて死ぬ、助けようとして死ぬ、キャンプの炊事中に死ぬ、風に飛ばされて死ぬ......といった「まさか、こんなことで......」と思うような事例が多数紹介されている。アウトドアで自分や大切な人が危険な目にあわないために持っておきたい、最低限の安全の知識が得られる1冊だ。

book_20230719161837.jpg
book_20230719161835.jpg
book_20230719161833.jpg

【目次】
1章 山で死ぬ
転倒して死ぬ/すべって落ちる/落石で死ぬ/土砂崩れで死ぬ/雪渓が崩れて死ぬ/雷に打たれて死ぬ/火山ガスで死ぬ/風に飛ばされて死ぬ/熱中症で死ぬ/夏なのに寒さで死ぬ/沢の増水で死ぬ/疲れて死ぬ/道に迷って死ぬ/発病して死ぬ/雪に埋まって窒息する/木に激突して死ぬ/雪崩で死ぬ/クレバスに落ちて死ぬ/アイゼンを引っ掛けて死ぬ/一酸化炭素中毒で死ぬ/火傷で死にかける
もっと知っておきたい安全知識 PART1

2章 動物にあって死ぬ
クマに襲われて死ぬ/イノシシに襲われて死ぬ/毒ヘビに咬まれて死ぬ/ダニに咬まれて死ぬ/ハチに刺されて死ぬ/サメニ襲われて死ぬ/オニダルマオコゼに刺されて死ぬ/ダツに刺されて死ぬ/オニヒトデに刺されて死ぬ/ブユの大群に襲われて死にそうになる/カタツムリやナメクジに触って死ぬ もっと知っておきたい安全知識 PART2

3章 毒で死ぬ
有毒植物を食べて死ぬ/毒キノコを食べて死ぬ/フグを食べて死にそうになる/アオブダイを食べて死ぬ/カニを食べて死にそうになる
もっと知っておきたい安全知識 PART3

4章 川や海で死ぬ
鉄砲水で死ぬ/助けに行こうとして死ぬ/ため池に落ちて死ぬ/飲酒して泳いで死ぬ/高波にさらわれて死ぬ/離岸流で死ぬ/戻り流れで死ぬ/シュノーケリング中に死ぬ/ボートから落ちて死ぬ/ボートに追突されて死ぬ/初心者がSUPで死ぬ
もっと知っておきたい安全知識 PART4

コラム
転滑落事故が起きやすい場所は?/変わりつつある人間とクマの関係性/中毒事例の多い主な有毒植物/中毒事例の多い主なキノコ

■羽根田治さんプロフィール
はねだ・おさむ/1961年、さいたま市出身、那須塩原市在住。フリーライター。山岳遭難や登山技術に関する記事を、山岳雑誌や書籍などで発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆を続けている。主な著書にドキュメント遭難シリーズ、『ロープワーク・ハンドブック』『野外毒本』『パイヌカジ 小さな鳩間島の豊かな暮らし』『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(共著)『人を襲うクマ 遭遇事例とその生態』『十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕』などがある。近著に『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(幻冬舎新書)、『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』(平凡社新書)など。2013年より長野県の山岳遭難防止アドバイザーを務め、講演活動も行なっている。日本山岳会会員。


※画像提供:インプレスホールディングス

 
  • 書名 これで死ぬ
  • サブタイトルアウトドアに行く前に知っておきたい危険の話
  • 監修・編集・著者名羽根田 治 (著)
  • 出版社名山と溪谷社
  • 出版年月日2023年7月19日
  • 定価1430円(税込)
  • 判型・ページ数四六変形判・144ページ
  • ISBN9784635500487

実用書の一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?