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本上まなみ×澤田康彦 18歳差の夫婦が「順ぐり」に綴る、家族の日常

Mori

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一泊なのにこの荷物!

 妻は俳優、夫は『暮しの手帖』元編集長。ともにエッセイストの肩書を持ち、一男一女と京都で暮らす。おしゃれで華やかな暮らしぶりを想像(妄想)していたが、それを期待して本書を読むと、当てが外れるに違いない。

 本上まなみさんと澤田康彦さんの共著、『一泊なのにこの荷物!』(ミシマ社)は、性格も趣味も嗜好もまったく異なる夫婦が、同じテーマで「順ぐりに」書いたエッセイ集だ。2人で決めたテーマに沿って、本上さん→澤田さんの順に書いている。

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 東京生まれ、関西育ちの本上さん。のんきでおおらか、「野性味あふれるおかん」の影響もあり、どこでも寝られてワイルドな現場も苦にならない。虫が好きで、海や山、外遊びを愛する、伸び伸びと育ったアクティブな人だ。

 一方の澤田さんは滋賀県生まれ(琵琶湖を「海」と信じて育ったそう)。小中高校時代は級長や委員長、クラブの部長など「『長』のつく要職をほしいままにしてきた」優等生ながら、お調子者。若い頃は冒険もしたが、基本は運動嫌いで枕が変わると眠れない。家でゴロゴロ映画を観ているのが至福、というインドア派だ。

 そんな対照的な2人が、あさごはんに始まり、海や山、お酒、車、旅、ひとり暮らしなど20のテーマに沿って、子ども時代の思い出や、若かりし日の失敗と武勇伝、そして現在の家族の暮らしを徒然に書いている。

標高を稼ぐ「オカン」

 同じテーマだからこそ2人の違いが際立って面白い。たとえば「山」。本上さんは「山が好きです。山には嫌なところがない」と、山の清々しさや植物のマニアックな楽しみ方、山登りの魅力を心から楽しそうに、嬉しそうに綴っている。対する澤田さんは、3000メートル級の「山男」だった20代のころ、幼なじみと一緒に登った槍ヶ岳で暴風雨に見舞われ、道に迷った恐怖の思い出を面白おかしく披露する。今では「山登りをしよう」と言い出すのはきまって本上さんで、夫を待つ気もなくずんずんと先を行く妻のことを、澤田さんはこう表現している。

これが「癒し」と言われた人の正体であった。この人は「癒さない」ことを、つきあって二十数年の私はよく知っている。子どもを従え、標高を稼ぐオカン。

 18歳年上の自分を「おやびん」と呼ぶ本上さんを、澤田さんは「ちびまる」と呼んでいるが、実は、家族の中の「おやびん」は本上さんなのではないか。

 エッセイを書きながら、「食べたもので身体は作られるといっても、同じものを食べていても同じ人間にはならないってことを再確認しました」と言う本上さん。確かに「似たもの夫婦」には当てはまらないかもしれないが、自由な精神や好奇心、ユーモアのセンスといった価値観が共通していて、長くともに過ごしてきた夫婦がまとう「同じにおい」も感じる。そしてそれは、たびたび登場する子どもたちに注がれる、2人のまなざしに表れている。

 どこにでもいる、ありふれた家族の日常の中にある、ささやかな幸せを集めたエッセイ集。最後のページに掲載された、タイトルの意味が一目でわかる写真も必見だ。

■本上まなみさんプロフィール
ほんじょう・まなみ/1975年東京生まれ。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、エッセイに『落としぶたと鍋つかみ』(朝日新聞出版)、『芽つきのどんぐり 〈ん〉もあるしりとりエッセイ』(小学館)、『はじめての麦わら帽子』(新潮社)、絵本に『こわがりかぴのはじめての旅。』(マガジンハウス)など。ABCテレビ『news おかえり』(火曜日MC)、BS朝日『そこに山があるから』に出演中。

■澤田康彦さんプロフィール
さわだ・やすひこ/1957年滋賀県生まれ。編集者・エッセイスト。マガジンハウスにて『BRUTUS』『Tarzan』等の編集に携わったのち退社、『暮しの手帖』編集長となる。2020年より家族の住む京都に戻る。エッセイに『ばら色の京都 あま色の東京』(PHP研究所)、『いくつもの空の下で 新暮らし歳時記』(京都新聞出版センター)、『四万十川よれよれ映画旅』(本の雑誌社)、短歌入門書『短歌はじめました。』(穂村弘、東直子との共著、角川ソフィア文庫)など。

  • 書名 一泊なのにこの荷物!
  • 監修・編集・著者名本上まなみ・澤田康彦 著
  • 出版社名ミシマ社
  • 出版年月日2023年4月28日
  • 定価1980円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784909394866

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