恋愛感情も性的欲求もなく、誰とも付き合ったことがない。
そんな私が子どもを授かり、育てている――。
KADOKAWAから発売された『精子バンクで出産しました!アセクシュアルな私、選択的シングルマザーになる』(原作:華京院レイ、作画:上村秀子)は、アセクシュアル(※1)で被虐待児だった「私」が、精子バンクで出産して愛する家族を持つまでを綴ったコミックエッセイだ。
「私」は性別不合(※2)を抱えていて、体が女で心は男。現在は女性でも男性でもないXジェンダー(※3)として生活し、精子バンクで精子提供を受けて産んだ子どもを、一人で育てている。
(※1)アセクシュアル:他者に対して性的欲求・恋愛感情を抱かないセクシュアリティ。
(※2)性別不合:出生時に割り当てられた性別と性自認が一致していない状態。
(※3)ここでは自らを男性・女性いずれの性別にも合致しないと意識する人のこと。
私のように 男性も女性もパートナーとすることなく
精子バンクで子を授かった場合も
子どもを愛する感情は 他の家庭となんら変わらない
私は、東京都中央区の佃(つくだ)・月島(つきしま)で生まれ育った。長男である父の実家が佃にあり、そこへ母が嫁いだ。
父は寡黙でコンピューターが好きな人だった。休日になると、秋葉原に一緒に行って電気部品を見た。父はドライブも好きで、車の中ではお互い無言だけど心が通じているようで、とても楽しかった。
一方、母はよく私を殴った。母はいつも化粧をしていて、上品な昭和のモダン・ガールのような人だった。かわいらしく着飾った娘を連れて銀座を歩くのが母のステータスで、幼い私は「アクセサリー」だった。
ピアノ、クラシックバレエ、ヴァイオリン、乗馬、フィギュアスケート......。食費を削ってまで多数の習い事をさせ、それができないと日常的に殴られる。「なんでこんな曲も弾けないの!! 本当にダメな子ね!!」。「母のためのハリボテのお嬢様」でいることが、私の存在意義だった。
ある日、ピアノの練習をサボって遊んでいるのがバレて首を絞められた。大人になってから聞くと、その時母は私を殺すつもりだったという。
ただ、四六時中私を殴っていたわけではない。日によって機嫌がころころ変わり、優しい日もあった。その態度の落差が「優しい母が殴る程私はダメなんだ」と思わせ、余計に落ち込むようになった。
そんな私に追い打ちをかけたのが、「女の子を演じる」苦しみ。小さいころから「体が女で心は男」だった私は、本来の自分はガキ大将のような男の子だと思っていた。しかし、「ダメな私」は「優しい母」が望む女の子を演じなければならないという強迫観念もあり、板挟みになっていった。
本来の自分、女の子を演じている自分。母から殴られる自分。ついに私のアイデンティティはバラバラになった。男友達に「ゲームしようよ!」と声をかけたら「女子のくせに男子に話しかけんなよ!!」と返され、先生からも「女の子なんだから女の子と遊びなさい」と注意された。それがきっかけで中学1年生のある日、声が出なくなったのだ。
その瞬間から 挨拶ひとつとっても
本来の「男の子」でするべきか
演じている「女の子」でするべきか
わからなくなった
「声が出ない」ことが、周囲の大人たちから「大人への反抗」と受け止められた。私は学校へ行けなくなり、このころになると母は私に飽き、父との関わりも薄くなっていって......。
居場所を失い、押し入れの中で過ごすようになった私。そこからどうやって這い上がり、世間一般の「普通」の枠から抜け出すことができたのか? 壮絶な体験を綴った原作者の華京院レイさんは、「この本が少しでも多くの方の選択肢を増やすきっかけになれば幸いです」と書いている。
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