本を知る。本で知る。

「初めての人はダメ」芥川賞作家・本谷有希子が「拷問」に遭った本とは?

(企画名)#木曜日は本曜日

 芥川賞作家の本谷有希子さんは、家庭では2児の母だ。今は毎日図書館に入り浸らせているという。

(本屋に行くと)あの人たちね、何でも欲しいって言うんですよ(笑)。(私も)「本だったら何でも買っていいよ」って言っちゃうじゃないですか。ちょっとやっぱりまだ早いんですよね、本屋に行って「選んでいいよ」ってするのは。

 とは言え、「絶対に本好きにしてやる」と意気込んでいる本谷さん。もう少し子どもが成長したら、親子の本屋巡りが日課になるかも?

 「週に1回街の本屋さんに足を運んでもらおう」と、東京都書店商業組合が立ち上げたプロジェクト〈#木曜日は本曜日〉。毎週木曜日に著名人・インフルエンサー・作家が「人生を変えた本」を紹介する、〈東京○○書店〉が更新中だ。これまでに上白石萌音さん羽田圭介さん鈴木おさむさんらが登場した。

 今回の〈東京本谷有希子書店〉には、「破壊」というテーマが。本谷さんの小説観や思い込みを壊したという、刺激的な本を見てみよう。


 1冊目に紹介したのは、笙野頼子さんの小説集『母の発達』(河出書房新社)。いわゆる「毒親」とも言える母娘関係から出発するのだが、母が縮小したり、増殖したりと、奇妙な変貌を遂げていく「爆笑お母さんホラー」だ。本谷さんは作中の、母を描写したこんな一節を読み上げる。

「縮む前は世の中を怨み私を責めてばかりいたはずなのだが、縮んでからは急に超能力を発揮し始めたり、活発になったりして、性格もトリックスターのようで、むしろ楽しそうだった。名前も律子からチャーリーに変わっていた。」

 この作品に出合った頃、本谷さんも母になり、「母」をテーマに何かを書こうとしていた時期だったそう。しかし、うまく書けずに既視感のあるものにしかならなかったという。そんなときにこの「ぶっ飛んだ」母娘小説を読み、衝撃を受けたのだそうだ。

自分の作品が全然面白くないから、破壊する

 「読書初心者は絶対に読んじゃダメ」と言いながら紹介したのは、「現代ロシア文学のモンスター」と呼ばれるウラジーミル・ソローキンさんの短編集『愛』(国書刊行会)だ。収録されている17編が、本谷さんいわく「どれ1つとってもまともじゃない」のだそう。たとえば「可能性」という作品は、「人間とはいったい何ができるのだろうか」という深い問いから始まり、後半はなぜか延々とおしっこの話ばかりが続く。

私、ソローキンの本を読む時、自分が椅子にぐるぐる巻きにされて、目が閉じられない拷問器具みたいなので拘束されて、もう目の前で起こることを傍観するしかないみたいな状態にさせられてるなって、いつも思います。

 まさに「破壊」のテーマにふさわしい、刺激的な作品のようだ。本谷さんが「破壊」される読書体験にこだわる理由とは?

壊さないと、自分が書いた作品が全然面白くないんですよ。(中略)一般常識言われても全く面白くないじゃないですか。一般常識と違う目線を持ち込まれて、「え? 何それ?」っていうところで独自の視点を小説に入れ込んでいくっていう作業が必要かなと思いますね。

 動画後半では、東京都北区にある「ブックスページワン イトーヨーカドー赤羽店」へ。本谷さんは平積みされた本を見ながら、編集者に「帯にもトレンドがある」と聞いて本屋でも今流行りの帯や表紙を分析するようになったという作家ならではの視点を披露した。

 書き手にとってはちょっと悲しい、こんなエピソードも。

むかし私、ある方に「どれだけいい内容を書いても、結局はタイトルと装丁で全部決まる」って言われたことがあって。その時は「えぇ?」とか言ってたんだけど、その方は結局その後ずっとヒットを出してらっしゃるから、どうやら法則があるらしいんですよね。......(私は)全然わかんないです(笑)

 本屋でベストセラーのタイトルと装丁を徹底的に観察したら、だんだん法則が見えてくるかもしれない。

〈本谷有希子さんの「人生を変えた本」10冊〉

『コンスエラ 七つの愛の狂気』ダン・ローズ(中央公論新社)
『輝く断片』シオドア・スタージョン(河出書房新社)
『フラナリー・オコナー全短篇 上』フラナリー・オコナー(筑摩書房)
『愛』ウラジーミル・ソローキン(国書刊行会)
『最初の恋、最後の儀式』イアン・マキューアン(早川書房)
『楢山節考』深沢七郎(新潮社)
『結婚』末井昭(平凡社)
『真贋』吉本隆明(講談社)
『母の発達』笙野頼子(河出書房新社)
『にんじん』ジュール・ルナール(岩波書店)

 『生きてるだけで、愛。』(新潮社)、『異類婚姻譚』(講談社)などの本谷さんの代表作を思わせる、愛・恋・結婚といったキーワードが並ぶ。読書に衝撃が欲しくなったら、1冊ずつ挑戦してそれぞれの「破壊」を味わいたい。

 〈東京○○書店〉は毎週木曜日に更新される。次回は誰が登場するのだろうか。

 〈#木曜日は本曜日〉公式サイトはこちら。→https://honyoubi.com/

 また、東京の各書店では〈#木曜日は本曜日〉オリジナルデザインのしおりを配布している。配布店舗の一覧はこちら。→https://honyoubi.com/assets/data/present_shoplist.pdf

〈東京本谷有希子書店〉しおりデザイン
〈東京本谷有希子書店〉しおりデザイン

■本谷有希子さんプロフィール
もとや・ゆきこ/1979年生まれ、石川県出身。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。主な戯曲に『遭難、』(鶴屋南北戯曲賞)、『幸せ最高ありがとうマジで!』(岸田國士戯曲賞)などがある。主な小説に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』、『生きてるだけで、愛』、『ぬるい毒』(野間文芸新人賞)、『嵐のピクニック』(大江健三郎賞)、『自分を好きになる方法』(三島由紀夫賞)、『異類婚姻譚』(芥川龍之介賞)、『静かに、ねぇ、静かに』など。近年、著作が海外でもさかんに翻訳され、『異類婚姻譚』『嵐のピクニック』を始め、様々な言語で出版されている。英語版は The New Yorker、New York Timesなどで大きな話題となった。


※画像提供:東京都書店商業組合




 


  • 書名 (企画名)#木曜日は本曜日
  • 出版社名(主催)東京都書店商業組合

書店の一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?