「女性の自由と罪の境界線を問う実録系サスペンス」――。
長編デビュー作にして、世界8カ国語で翻訳権が販売された期待の新人ケイティ・グティエレスさんの小説『死が三人を分かつまで』(原書: MORE THAN YOU'LL EVER KNOW)が、動画配信サービス「U-NEXT」より刊行された。
■あらすじ
2017年7月、売れない犯罪実話ライターのキャシーは1つの記事に目を留めた。テキサス州南部の地方紙が、1986年8月に起きたアルゼンチン人男性銃殺事件の背景を探っていた。2人の男と重婚した女性ローレ、彼女の夫によるもう1人の夫の殺人。全ての原因となったローレは取材を拒否していた。もし彼女の視点で事件を書けたら? キャシーはローレに接近し、事件当時のことは話さない条件で取材権を得た。共に秘密を抱えた2人の女性の対決はやがて......。
物語は「キャシー 二〇一七年」から始まる。その一部を紹介しよう。
<彼女の秘密の二重生活――ある女の重婚がいかにして罪のない男の殺害につながったか>。女が殺される事件にすっかり慣れきっていたキャシーは、この記事の見出しを読んで好奇心を刺激された。
そこにはモノクロの家族写真2枚が掲載されていた。1枚は1978年に撮影されたもので、妻のドロレス・リヴェラ(ローレ)と、夫のファビアン・リヴェラ、それに双子の少年が、もう1枚は1984年に撮影されたもので、同じくドロレスと、アンドレス・ルッソという男性、それに少女と少年が写っていた。
ドロレスは、33歳にしてテキサス州にある銀行の執行役員だった。頭の回転が速く、人好きのする性格で、茶色の瞳は明るく輝き、彼女が笑うと周囲もつられて一緒に笑いだすような人だった、とある。そして記事の末尾にはこんな断り書きが。<ドロレス・リヴェラは当社の取材を拒否しました>
二重の結婚生活を維持するなんて、そう簡単にできることじゃないわよね。子供を持つ母親が、どうして重婚なんかしようと思うわけ? もっと詳しく知りたい、これはチャンスだ、とキャシーは思った。
「めったにいない女の重婚者。しかも、最終的に殺人事件にまで発展しているのだ。当人にじかに取材し、その視点で記事が書けたら――? 大スクープだ」
事件の詳細はこうだ。
1986年8月、テキサス州のモーテルでアンドレス・ルッソの遺体が発見された。ドロレス・リヴェラとアンドレスが結婚して1年、交際を始めて3年近くたったころだった。警察の捜査により、アンドレスは妻のドロレスを訪ねてテキサスに来ていたことが判明。
捜査を担当した刑事は、ドロレスとファビアンの両方に事情聴取をした。当初はドロレスが容疑者と目されていたが、まもなくファビアンが最有力容疑者として浮上した......。
記事にはグロテスクな描写も含まれインパクトはあるものの、血なまぐさい記事を書いてきたキャシーからしたら、「事件の本質に迫るための分析」が欠けていると感じられた。
ファビアンはどんなきっかけでドロレスの二重生活を知ったのか。自分とアンドレスの2人を欺いたドロレスではなく、アンドレスに怒りをぶつけたのはなぜか。一方のドロレスは、2人の男の人生を狂わせた罪の意識にさいなまれているのか。それとも、2人から解放されてほっとしたのか......。
もたもたしていてはチャンスを逃してしまうと、キャシーはドロレスへの接近を試みる。
「いまの私は、犯罪実話業界を動かしている薄汚れたちっぽけな歯車かもしれないが、それでもこのジャンルが好きでたまらない。節度を持って再現された犯罪ノンフィクションは、人間の本質を解き明かす。(中略)調査報道ジャーナリストの冷静な観察眼は、曖昧だった何者かの輪郭を明瞭に浮かび上がらせる」
「フーダニット(Who done it?=誰が罪を犯したのか)を巡って手に汗握る実録系サスペンスの怪作」と言われる本書。400ページ超の大著かつ緻密な描写で、罪の境界の曖昧さを突き付ける。ぜひじっくり読んで浸りたい。
■ケイティ・グティエレスさんプロフィール
テキサス州立大学MFA文芸プログラムを修了後、「タイム」「ハーパーズ バザー」「ワシントン・ポスト」などの紙誌に寄稿。テキサス州ラレード出身、現在は夫と子供2人とともにテキサス州サンアントニオ在住。本作で長編デビューを果たす。
■池田真紀子さんプロフィール
英米文学翻訳家。訳書にジェフリー・ディーヴァー「リンカーン・ライム」シリーズ、ジョセフ・ノックス『スリープウォーカー』、チャック・パラニューク『ファイト・クラブ』『サバイバー』、ミン・ジン・リー『パチンコ』など。
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