・いつも不安がある
・起きたときから疲れている
・取りこし苦労をよくする
・感情に波があり、イライラしやすい
・短気でせっかち
・飽きっぽい
・集中力が続かない
・もの忘れが多い
・不眠 ...etc
こんな症状に心当たりはないだろうか。もし当てはまるものがあれば、あなたは「加速思考症候群」かもしれない。
めまぐるしい情報に追われて、脳が休むことなく加速し続け、自分自身をストレスにさらし続ける人々。ブラジルの精神科医アウグスト・クリさんは、彼らを「加速思考症候群」と名づけた。大人から子どもまで、現代人の80%が思い当たるのではとクリさんは言う。
知識を詰め込むばかりの勉強。忙しない仕事。スマホやPCから入ってくる膨大な情報。未来に対して抱くさまざまな不安。私たちは考えることがありすぎて、思考がオーバーヒートしている。もっともまずいのは、その状態を「病的だ」と自覚しないことだ。あなたやあなたの身の回りの人たちが蝕まれているかもしれない「加速思考症候群」について、詳しくみていこう。
「加速思考症候群」6つのステージ
クリさんは、「加速思考症候群」の深刻度を6つの段階に分けている。
レベル1. 気が散る
話を聞いていても、思考が「どこかへ行って」しまう。本を読んでいても内容が頭に入らない。集中力が続かないのは、思考がオーバーヒートしている人の第一の症状だ。子どもにもよくみられるが、たいてい注意欠陥や多動性障害と誤診される。
レベル2. 過程を楽しめない
本を、結論が書いてありそうな最後の章から読む。映画を飛ばし飛ばし見て、物語のあらすじだけを把握する。こんな、過程を楽しめずすぐに最終地点に到達したがる人は、自分に休息を与えず、目的を達成しても喜びを感じない。
レベル3. すぐに飽きてしまう
パーティーにわくわくして訪れても、すぐに退屈して帰りたくなる。テレビ番組にもすぐに飽き、しょっちゅうチャンネルを変える。こんな人は、いつも自分の外側に何かを探しているけれど、外の世界に対して自分の思考スピードがあまりに速く、自分以外が全て退屈に思えてしまう。
レベル4. スローペースに耐えられない
ものごとの理解が遅い人や、行動力がない人、ペースがゆっくりな人と一緒にいるとイライラする。飲み込みが悪い人に対して、何度も同じ間違いをするのは仕事ができないからではないかと考えるが、本当は周囲のペースに対して自分のペースが速すぎるだけだ。
レベル5. 休暇を楽しめない
ずいぶん前から休暇の計画を立て、いよいよ待ちに待った休暇を迎えるが、いざレジャーに出かけると渋滞にイライラし、家族にイライラし、お金がどんどん出ていくのにイライラする。休暇中ですら脳が休まらない。
レベル6. 老後が憂鬱になる
忙しなくストレスの多い仕事から解放され、ゆったりと穏やかな生活を送るのを心待ちにしていながら、いざ退職すると、隣人にいらだち、新しい友人もできず、仕事をしなくなった自分は役立たずだと感じるようになる。人生を楽しみ、休息をとり、美しいものを愛でる感情がその人の中に残っていないからだ。加速思考症候群は、私たちの人生を味気ない砂漠に変えてしまう。
思考を加速させる3つのキーワード
では、人が加速思考症候群におちいるメカニズムを説明しよう。クリさんの理論では、人の思考には、意識でコントロールできる「自己」のほかに、「引き金」「窓」「オートフロー」という3つの要素がある。
たとえば、懐かしい土地へ行き、そこでの思い出がよみがえることがある。このとき、私たちは意識して当時を思い出そうとしているわけではない。その土地の風景や空気が「引き金」となり、思考の無意識下にある記憶の「窓」を開いたのだ。
記憶を保存する「窓」のうち、負の感情やトラウマにつながるものをクリさんは「キラー窓」と呼ぶ。たとえばドラッグなどの中毒患者は、ドラッグの化学物質そのものに依存しているわけではなく、薬物が引き金となって、ドラッグの経験が記録されている「キラー窓」が開け放たれてしまうのだ。
「オートフロー」は、無意識下の思考の流れだ。「引き金」によって「窓」が開け放たれると、「窓」の記憶を増幅させるような感情や映像を、「オートフロー」がつくり出していく。「オートフロー」は、喜びや楽しさを増幅するときには創造性やモチベーションのもとになるが、「キラー窓」とむすびついて暴走すると、感情に支配され、不安やイライラが止まらない状態になる。つまり「オートフロー」の働きで、ネガティブな思考が際限なく加速していくのだ。
大事なのは「自己」の力
私たちをストレスにさらし続ける「加速思考症候群」。ここから抜け出すためには、どう対処すればよいのだろうか。
「加速思考症候群」を改善するには、思考や感情をエスカレートさせる「オートフロー」をコントロールする必要がある。無意識下の「オートフロー」をコントロールする存在こそ、私たちの意識、つまり「自己」だ。「自己」が「今、不安に支配されそうになっているな」と意識の内でとらえれば、「オートフロー」の流れにブレーキをかけることができる。しかし、「自己」を育てるのは簡単なことではない。
クリさんは、私たち現代人がこのような状況におちいっている原因の一つは、情報を与えるばかりで「自己」の育成を促さない現代の教育にあるという。学校では、心の守り方は教えてくれない。ただ教科書を覚えさせられ、テストを受けさせられているうちに、脳はただ作業をこなすロボットのようになり、「自己」が希薄になる。そして、早くこなさなければ、生産性を上げなければと思ううちに、思考ばかりが加速して「オートフロー」をコントロールする力が身につかず、「加速思考症候群」におちいってしまう。
クリさんはブラジル人だが、勉強や仕事に縛られすぎてしまうのは、日本人にかなりよくある傾向ではないだろうか。日々いろいろなことを考えすぎて疲れているあなたも、まずはその状態が普通ではなく、自分にストレスをかけすぎている状態だということに気づく必要がある。そしてもし自分の力で抜け出せそうにないなら、4月21日発売の本書『「加速思考」症候群 心をバグらせる現代病』(ハーパーコリンズ・ジャパン)を手に取って、クリさんの話に耳を傾けるのもいいだろう。本書はブラジルで120万部を突破したベストセラーだ。きっと国にかかわらず、今の時代を生きる多くの人々がこの本を求めているはずだ。
※画像提供:ハーパーコリンズ・ジャパン