何にも乱されず、凛として穏やか。そんな内面をつくってくれるのが、茶道だ。しんとした空間で、相手のことだけを思ってお茶を点てる。その心得と礼儀作法が、美しい心を育ててくれる。
さらには、生活習慣・所作・コミュニケーション力・「和」の知識・健康などなど......お茶は、私たちにさまざまなよいことをもたらしてくれるのだ。
でも、茶道ってなんだか敷居が高そう......。そんなあなたにおすすめしたいのが、『「お茶」を学ぶ人だけが知っている凛として美しい内面の磨き方』（実務教育出版）。裏千家茶道家の竹田理絵さんが、心を育てる茶道の本質を、ていねいにわかりやすく教えてくれる。
ここでは特別に、第1章全文を11回の連載形式でご紹介する。今回は第7回。茶道が柔軟な「気遣い」の心を育ててくれるという、体験談だ。
（以下、本文より）
常に周りの人を気遣う ――優しい心になる
お茶事やお茶会では、常にお客様の様子に気を配ります。
ご年配の方であれば、足腰が痛くなっていないか、お茶の温度は最適か。小さいお子さんなら苦くなりすぎないように薄めにお茶を点てるなど、お客様の気持ちや立場になって考えます。
気遣いをする上で重要なポイントは、「相手が望むことや喜ぶであろうこと、そしてその逆をきちんと想像できているか」ということです。どうしたら相手が気分よく過ごせ、喜んでくださるかは、その時々の状況やタイミングで変わってきます。
さまざまなケースに対応するためには、臨機応変さや柔軟性も必要となります。
ある時、茶道体験を予約されていた中国人の団体のお客様が、渋滞で１時間近く遅れていらしたことがありました。
次の予定が近いとのことで、スタッフを総動員して茶道のデモンストレーションと和菓子、お抹茶を楽しんでいただき、なんとか時間内に間に合わせることができました。
お客様からは、「茶道体験か次の予定のどちらかをキャンセルしなければ......と思っていたけれど、おかげで両方とも楽しめました。日本人の気遣いと優しさを感じました」と、嬉しいお言葉をいただきました。
お客様の気持ちになって、二度とできないかもしれない海外での体験がなくなってしまった時の失望の大きさを考えると、それだけは避けたいと思ったのです。
限られた時間の中ですべての体験をしていただきたいと思い、通常は茶道の説明をした後にお点前のデモンストレーションをご覧いただき、そのあとでゆっくりと和菓子とお抹茶をお楽しみいただくのですが、私がお点前をする横でスタッフに英語で説明してもらい、お点前の後半で和菓子とお抹茶をお配りしてお楽しみいただきました。
「気遣い」と聞くとハードルが高く感じますが、要は相手に対する正しい観察眼と想像力を持つことで、自然と振舞いも変わってくるということです。そしてその力を養うには、失敗を恐れず場数を踏むのが一番です。
■竹田理絵（たけだ・りえ）さんプロフィール
茶道家（裏千家教授）、株式会社茶禅代表取締役。
神楽坂生まれの三代目江戸っ子。青山学院大学文学部卒業後、日本IBMに入社。日本の伝統文化の素晴らしさを伝えるため、退社後、株式会社茶禅を設立。銀座と浅草に、敷居は低いが本格的な茶道を体験できる茶室を開設する。世界30ヵ国の人々に日本の伝統文化を伝え、のべ生徒数は3万人超。また、10ヵ国以上の国々に赴き、さまざまな場所で茶道の点前を披露してきた。2017年、ブルネイ国王即位50周年時にブルネイにて茶会を披露。各国首相や大使館、官庁、VIP、一部上場企業からの信頼も厚く、お茶会を多数実施。千利休から学ぶビジネス研修は経営者が注目し、企業研修にも取り入れられている。ハーバード大学等、茶道を取り入れた教育・教養研修実績多数。初めての著書『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』（自由国民社）は3.3万部を超えるベストセラーになった。
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