女性初、黒人初、アジア系初のアメリカ副大統領となったカマラ・ハリスの初の自伝『私たちの真実――アメリカン・ジャーニー』(光文社)が刊行された。
「老いも若きも、男性も女性も、すべての人を勇気づけ、生きる指針となる一冊『私たちの真実』を、自信を持ってお届けします」と出版社はコメントしている。
なるほど、濃密な中身、こなれた日本語訳、重厚感のある装丁から、その「自信」が感じとれる。率直に言って、圧倒的な読み応えだった。
「この本は、人々に行動を促すきっかけとして、そして闘いは真実を語ることに始まり、真実を語ることに終わらなければならないという私の信念から生まれたものだ」
原題は『THE TRUTHS WE HOLD: An American Journey』(2019年刊行)。
まず、カマラ・ハリスの半生を凝縮して紹介しよう。本書では、よくここまで覚えているものだと驚くほど詳細に、幼少期から綴られている。
ハリスは移民の娘として生まれ、社会正義への関心が強いカリフォルニア州オークランドで育つ。ジャマイカ出身で著名な経済学者の父と、インド出身で優れたがん研究者の母は、カリフォルニア大学バークレー校の大学院生時代に公民権運動を通じて出会った。幼い頃に両親が離婚し、妹とともに母親に育てられる。
ハワード大学、カリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールを経て、地方検事補に。法執行機関における「最も革新的な改革者」としてたちまち頭角を現し、ほどなくしてサンフランシスコ地方検事に、その後カリフォルニア州司法長官に選出される。そして2016年11月、黒人女性として史上2人目の上院議員に当選。今年1月、アメリカ副大統領に就任した。
ハリスはこれまで「改革を起こす者」としてキャリアを重ね、医療保険制度、ニューエコノミー、移民、国家安全保障、オピオイド鎮痛薬乱用、加速する不平等という複雑な問題に対処してきた。
「最も困難な問題は、それについて率直に話さないかぎり、そしてまた、難しい対話をいとわずに事実が明らかにすることを進んで受け入れないかぎり、解決できない。私たちは真実を語らなければならない」
ハリスはこうした信念のもと、アメリカの諸問題、直面する危機に鋭く斬り込んでいく。
本書は「第一章 人々のために」「第二章 正義のための発言者」「第三章 水面下」「第四章 ウエディングベル」「第五章 さあ、ともに闘おう」「第六章 損なわれた威信」「第七章 みんなの体」「第八章 生きるためのコスト」「第九章 賢明な安全保障」「第一〇章 人生が教えてくれたこと」の構成。
口絵には、32ページにわたり65点の写真を掲載。ジャマイカとインドにルーツをもつハリスが、どんな人々に囲まれて育ち、法律家、政治家としてどう歩んできたのかが一覧できる。
「この本は政策綱領をうたっているのでも、ましてや五〇か条計画を発表しているわけでもない。ここには私自身の、そしてこれまで私が出会った多くの人々の考えや視点、人生のストーリーが収められている」
アメリカの現状やハリスの闘いの記述が多い印象を受けたが、特に興味深く、印象的だったのは、彼女のもっと個人的な部分。たとえば、「いまの私たちをかたちづくった最大の功労者は母」とある。
母は「非凡な人」だった。娘たちの背中を押し、大きな期待を抱いて子育てをした。そしていつも「私たちは特別で、努力すればやりたいことはなんでもできる」という気持ちにさせてくれた。
公職を目指そうと思ったときのことを振り返っている。「それで、あなたは何をしたの?」――。子どものころ、母にいつもプレッシャーをかけられたが、その意味が不意にすとんと腑に落ちる瞬間が訪れた。
「ほかの誰かが声をあげるのを待っていてはいけない、私は自分の力で物事を実現させることができると気がついたのだ」
キャリア、信念、実行力。どこをどう切り取っても、そうそういないレベルの「スーパーウーマン」と言える。「アメリカ国民の心を最も動かす政治リーダー」とはこういう人物なのかと、唸った。
ただ、家族を愛し、家庭と仕事を両立させ、何事も全力で立ち向かう姿に、共感もした。そのバックグラウンドや人柄を知れば、ますますカマラ・ハリスから目が離せなくなるだろう。
「この本は私のパーソナルな記録である。私の家族の物語であり、私の子ども時代の物語であり、成長した私が築いてきた人生の物語だ」
■カマラ D. ハリス(KAMALA D. HARRIS)プロフィール
アラメダ郡地方検事補としてキャリアをスタートさせたのち、サンフランシスコ地方検事に選出。カリフォルニア州司法長官時代、多国籍ギャング、大手銀行、大手石油会社、営利目的の大学を起訴し、医療保険制度改革法への抵抗と闘った。また、小学校の無断欠席問題の解決に尽力し、刑事司法制度における人種差別の現状を明らかにしようと、全国に先駆けてオープン・データ・イニシアティブを立ち上げ、警察官を対象に潜在的偏見に対処するための研修を実施。黒人女性として史上2人目の上院議員に当選し、女性初、黒人初、インド系アメリカ人初の副大統領に。刑事司法制度改革、最低賃金の引き上げ、高等教育の無償化、難民および移民の法的権利保護に取り組んでいる。
■藤田美菜子プロフィール
早稲田大学第一文学部卒。訳書に『悪党・ヤクザ・ナショナリスト』(朝日新聞出版)、 『より高き忠誠』(共訳、光文社) 、『約束の地 大統領回顧録1』(共訳、集英社)、『炎と怒り』(共訳、早川書房)など。
■安藤貴子プロフィール
早稲田大学教育学部卒。訳書に 『つきあいが苦手な人のためのネットワーク術』(CCCメディアハウス)、『ミーティングのデザイン』(ビー・エヌ・エヌ新社)、 『ロケット科学者の思考法』(サンマーク出版)など。
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