「教養とは『過去を未来に生かす技術』です」――。
池上彰さんの著書『おとなの教養3――私たちは、どんな未来を生きるのか?』(NHK出版新書)は、累計46万部『おとなの教養』シリーズの最新刊。
「私たちは、ついつい、未来を現在の延長線上にあるものとしてイメージしてしまいがちです」――。言われてみればたしかに。
ところが、そんな私たちにコロナ禍という「まさか!」が降りかかったのである。日常は一変し、世界が大混乱に陥る事態に。もはや「未来のことなんて考えてもしようがない」と思いたくもなるが......
「むしろ、こう考えてみませんか。未来は不透明で、不確実です。だからこそ、『私たちは、どんな未来を生きるのか?』を考えなければいけないのだ、と」
シリーズ1作目『おとなの教養――私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』では普遍的教養である「リベラルアーツ」を、2作目『おとなの教養2――私たちはいま、どこにいるのか?』では日々のニュースや出来事を捉え直す力を取り上げていた。
3作目となる本書では、私たちがこれからの未来を生きていくうえで、必要不可欠な知識や考え方を取り上げている。
では、未来に備えるには何が必要なのか? 最も重要なのは「過去の経験や失敗から学ぶこと」だという。
ここでは、SARS(重症急性呼吸器症候群)の失敗を生かした台湾を例に挙げている。
2003年のSARS流行時、台湾は対応に失敗し、大きな痛手を負った。この教訓から、新型コロナに先手で対策を講じ、封じ込めに成功。台湾はいま、新型コロナ対策の成功例として世界から注目されている。
「過去の歴史に学び、それを未来に生かしていく。それが、本書で伝えたいと考えている『未来を生きるための教養』です」
では、どうしたら過去からの学びを未来に生かせるのか? ポイントを2つ紹介している。
1つは、大きな変化をもたらした出来事の「予兆や伏線を見つける」こと。「もちろん、ある出来事が何かの予兆になっていたかどうかは、あとになってみなければわからない」のだが......
「過去の歴史を振り返り、大きな変化をもたらした予兆が何であったのかと考えることは、その次の予兆を発見する力を養ってくれます」
「歴史」を伏線が張り巡らされた「ミステリー小説」と捉えてみることは、「未来の出来事の予兆や伏線に気づく嗅覚を養うトレーニング」になるという。
もう1つは、「逆の視点で考えてみる」こと。ここでは、南シナ海の領有権を主張する中国を例に挙げている。
「中国は自分勝手な国だから」と思うだけでは、「一面的な理解」にとどまる。そこで「なぜ中国はそんな乱暴な主張をするのか」と、逆の視点に立ってみる。「主張の裏側にある歴史的な背景を知ることも大切」なのだという。
「ある出来事を逆の視点から考えることは、未来への想像力を鍛えることにもつながるのです」
ここまでが序章である。「私たちは、どんな未来を生きるのか?」を考えるための6つのテーマについて、本書は「そもそも」からわかりやすく解説している。
■目次
序章 私たちは、どんな未来を生きるのか?
第一章 気候変動――地球はもう限界なのか?
第二章 ウイルスと現代社会――人類は感染症を克服できるか?
第三章 データ経済とDX(デジタル・トランスフォーメーション)――生活や仕事はどう変わるのか?
第四章 米中新冷戦の正体――歴史は何度も繰り返すのか?
第五章 人種・LGBT差別――アイデンティティ政治とは何か?
第六章 ポスト資本主義――なぜ格差や貧困はなくならないのか?
特に気になった第二章では、「新しいワクチンの画期的な製造法」「『九五%の有効性』とはどういう意味か」「感染防止と人権のバランス」などの項目が並ぶ。
ここでは、「人類の進化とウイルスの関わり」を紹介しよう。
精子は父親の、卵子は母親の遺伝子情報をもっている。父親の遺伝子が卵子に入ってきたとき、それは卵子にとって異物であり、拒絶反応が起きてもおかしくない。ところが、その拒絶反応を止める細胞があるという。これが外部から入ったウイルスによってつくられたのではないかということが、最近の研究でわかってきたそうだ。
もしウイルスが人間を全員殺したら、そのウイルスも存在できなくなる。そのため、どこかで突然変異をして、あまり害を与えなくなったり人間の体に入って役に立つようになったり、ということが起こるのだという。
「結局、人類とウイルスは共存せざるを得ないし、共存することによって、私たちは進化すら遂げてきたのです」
読みながら「そうだったのか!」の連発である。自分の知識がいかに表面的かつ断片的だったか、身に染みてわかった。
本書の「未来のための教養講義」を受ける前後では、ニュースや物事の見方がガラリと変わるだろう。
■池上彰さんプロフィール
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業。NHKで記者やキャスターを歴任。94年より11年間「週刊こどもニュース」でお父さん役を務める。2005年よりフリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在は名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授など、9つの大学で教える。『見通す力』『はじめてのサイエンス』(ともにNHK出版新書)、『伝える力』(PHPビジネス新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『わかりやすさの罠』(集英社新書)など、著書多数。
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