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"誰にでも起こりうる選択肢"を考えてほしくて/『コロナ黙示録』海堂尊インタビュー(1)

 『チーム・バチスタの栄光』を皮切りにベストセラーを連発している、作家・医学博士の海堂尊さん。

 その確かな医学知識に裏打ちされたダイナミックなエンターテインメント作品で読む人を魅了し続けている。そんな海堂さんが、2020年7月10日に宝島社から新作『コロナ黙示録』を発売した。

 本作で取り上げるテーマは、今世界中で感染拡大している「新型コロナウイルス」だ。BOOKウォッチ編集部では、『コロナ黙示録』執筆に至った経緯や、作品に込めた思いを海堂さんに聞いた。

写真は、『コロナ黙示録』(宝島社)

――「コロナ」をテーマに書こうと思ったきっかけは。

海堂 4月頭に「緊急事態宣言」が発令されて、新型コロナウイルス(以下・コロナ)の感染拡大が本格的に問題になりましたよね。ということは、コロナを題材にした本を書けば、多くの人は自分ゴトとして考えるだろうと思ったのです。「チーム・バチスタ」時代から描いている桜宮サーガは"日本のパラレルワールド"なので、現実世界で起こったことを写し取り、桜宮サーガに応用することで二本柱の物語を展開しようと考えました。

――コロナ禍に揺さぶられる経済、政治の動きを取り上げるなど、とても重厚な作りになっています。苦労されたのでは?

海堂 大変でしたし、すごく疲れました。というのも、コロナ禍で起きた事象を取り上げたネットニュースが次々と消えてしまっていたからです。

――それは大変でしたね。作品に盛り込む上で工夫されたことは。

海堂 そこで、本作では分断された事象を骨格化して提示したいと思いました。政治的なことも取り上げているので一見、批判的に見えますが実は、あらすじしか書いていないのです。ところどころ、僕の憤りみたいなものが出てしまっていますが......(笑)。

写真は、『コロナ黙示録』著者の海堂尊さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
写真は、『コロナ黙示録』著者の海堂尊さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

――海堂さんは、ニュースが消えてしまった状況について、どのように考えていますか。

海堂 一般の人が理解しきれない状況になってしまっていることは、問題だと思いました。過去を積み上げて新しいものを作ることが常識とされる医学界に身を置いているので、なおさら有り得ないなと。しかし、そのことを医療現場から呟いても届かないと思ったので本作で形にしたのです。

――ファンは「コロナと向き合う田口先生が見たい」と待ち望んでいたと思います。今回、気をつけたポイントはありますか?

海堂 彼は受け身なタイプなので、どうにでもなるというか。なんでも受け入れて動く存在なので、特に何も意識せずに書き進めました。最初の3日で冒頭1、2章がスラスラと書けたので、その勢いで宝島社さんにも提案しました。

――構成したストーリーに対して、おのずと田口先生はハマっていくと。

海堂 そうですね。田口先生は良い子です(笑)。

写真は、『コロナ黙示録』著者の海堂尊さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
写真は、『コロナ黙示録』著者の海堂尊さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

――物語の展開として北海道も登場しています。これは北海道が最も早く「緊急事態宣言」を出したことに関係しているのでしょうか。

海堂 まさにその通りです。現・北海道知事である鈴木直道さんが、日本政府より先に「緊急事態宣言」を出して見事な医療連携を作ったことは、本作にも流用できると思いました。鈴木知事は夕張市長出身で、本作の益村知事と同じ設定なのです。

――益村知事は、過去作『ナニワ・モンスター』『極北クレーマー』に登場していました。本作で北海道知事として登場するあたりは、コロナ禍が導いたということでしょうか。

海堂 はい。当時は無名でしたが、このタイミングで登場したことは、鈴木知事にも重ねられます。まさに日本の現状を写し取ったものになったのではないでしょうか。

"誰にでも起こりうる選択肢"を考えてほしくて

――本作では実際に起こりうるテーマにも切り込んでいます。例えば、1つしかない医療機器に対して患者が2人...。この場合、医師にとって「選択する」という立場は、相当な覚悟がいるはずです。

海堂 そういった状況に成り得ることを考えておくのがプロです。NY州の病院で人工呼吸器が足りなくなっている状況をTVで見たときに、患者を選択せざるをえない状況は見て取れますからね。「自分だったらどうするか」と、常に考えておける人こそが本物の医療従事者だと思っています。

写真は、『コロナ黙示録』著者の海堂尊さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
写真は、『コロナ黙示録』著者の海堂尊さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

――では、医療従事者に対してのメッセージというよりは、一般の人に向けたメッセージでしょうか。

海堂 そうですね。一般の人に対して「こういうことが起こりえますよ」というメッセージを込めています。医療従事者側からすると普段から考えていることなので、特別な状況ではないと思いますが、一般の人にとっては滅多にない機会だと思うので。「こういう選択がある」ということを理解してもらいたい意図も込めました。

(第2回につづく)
※第2回「桜宮サーガはクラウド・ワールドが主宰者/『コロナ黙示録』海堂尊インタビュー(2)」は8月6日公開予定

BOOKウォッチ編集部 ムカイ)



■プロフィール
海堂尊(かいどう たける)
1961年、千葉県生まれ。医学博士。外科医、病理医を経て、現在は国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所・放射線医学総合研究所病院勤務。第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、『チーム・バチスタの栄光』にて2006年デビュー。同シリーズは累計発行部数1000万部を超える。


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