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日常の違和感も「タグ大喜利」でフィクションに! ~麒麟・川島明に聞く~(第3回)

 漫才をはじめ、バラエティ番組、朝ドラ、MCなど多方面で活躍し、独特の存在感を放つ麒麟・川島明さん。前回の記事「『みんな心のどこかで、笑いたい気持ちがある』 ~麒麟・川島明に聞く~(第2回)」では、多くの人が笑いを求めているいま、川島さんがどんな想いで本書を世に送り出したのかを聞いた。第3回は、川島さんの「タグ大喜利」の源泉は何かを聞く。

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写真は、麒麟・川島明さん。

スッと引っかかった言葉

―― 言葉をいくつも組み合わせて一つのタグにしていますね。言葉をアウトプットするには、言葉のインプットや感性を刺激する体験が必要かと思うんですけど、ふだん意識してやっていることはありますか。

川島 別に面白くないのに、スッと引っかかる言葉があるんですよね。全員あると思うんです。シリアスな映画を観ていてもあって、最近だと「パラサイト 半地下の家族」の「半地下」という言葉がすごく面白いなと。そこから「半おもろ」「半チャーハン」「半ライス」(笑)大喜利で言うと、「そこにチャーハンが置いてあった」より「そこに半チャーハンが置いてあった」の方が、景色が浮かんでおもろいんですよね。

 何かこう、引っかかった言葉とか、ちょっとした違和感ですね。「聞いたことないぞ、それ」みたいな。「膝が笑う」もすごいと思うんですけど(笑)そういう気になった言葉とか誰かが言った好きな言葉を、全部メモるようにしていますね。

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写真は、麒麟・川島明さん。

「かまへんか」と思えるように

―― 千鳥・ノブさんが「『例えのスピード、精度』『返し』『フレーズ』...同世代ダントツ1位が、全部出てる!!」と帯コメントを寄せています。写真にピタリとハマる「タグ大喜利」を考える発想力や瞬発力は、もともと持ったものなのか、それとも鍛えて身についたものなんですか。

川島 芸人になりたての頃は、何をしゃべろうかとめっちゃ考える性格でした。芸人になって10年、30くらいまでは全然喋れなかったんですよ。東京に呼んでもらって、相方の本(注1)がバーンと売れて、全バラエティーを一周させてもらったんですけど、そのときも全然浮かばず。自分のエピソードをしゃべることはできるんですけど、「それでお前どう思うてん?」と聞かれると、うまく返せなくて。

(注1)相方の本......2007年に刊行された、麒麟・田村裕さんの自叙伝『ホームレス中学生』。発行部数は約225万部に上り、映画化もされた。

 自分の中で「絶対に滑れないな」という時期やったんですよね。「今日絶対100点とって帰ろう」「絶対失敗してはいけない」「ここでミスったらチャンス逃す」と思って、グーッとこらえて。そういう時期やったんですよ。

 相方の本がバーンと売れたとき、「僕、何しとんやろうな?」と思いながらも、一人でいろいろ仕事をさせていただくようになって。それで仕事が周り出した頃、年齢的なことも「M-1」が終わったことも大きかったんですけど、「何かもう、かまへんか」と思えるようになってきたんですよ。

 滑ったらもちろん凹みますけど、たとえ滑っても次の仕事あるしな、って(笑)それまでは「今日が全て、決勝戦やったら終わり」という気持ちでずっとやっていたんですけど。もう思ったことを全部しゃべる。瞬発力がどうとか先輩に言っていただけるようになったのは、そうやって考え方が変わってからですね。

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写真は、麒麟・川島明さん。

リラックスしたら瞬発力生まれた

―― もう構わないと、吹っ切れることで状況がよくなっていったんですね。

川島 絶対そうですね。後輩から「どうしたら売れますか?」とよく聞かれるんですけど、僕が思うのは「売れたかったら売れろ」ということなんですよ(笑)何か難しい捉え方しているけど、チャンスがほしいんやったら、チャンスがめっちゃもらえるところに行け。とりあえず売れる。売れてから話聞くわ、っていう。

 売れる人って、もっと売れるんです。チャンスがとにかく多いし、扱いもよくなっていくので。その人の面白さがすごく伝わりやすい状況になるんです。それで自分は「売れるために、先に売れなあかんな」とめっちゃ思いました。

 特にアンタッチャブルさんとかの雛段の横にいたとき、スピードが違ったから。パンって振られてギャグで返す。パッとエッジの効いたことを言う。「これはもう勝てない。東京ってすごいな」と思いました。

 だから自分も、始まる前にめっちゃ考えんと、フラッと、家みたいなテンションでパッと座ったほうがいい。いつもどおりやっていないと、雛段とかバラエティのスタジオを日常にしていかないと、やっぱり頭が固まっちゃうんです。急に瞬発力がよくなることはないんですけど、リラックスできたら瞬発力は生まれるのかな、と僕は思います。

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写真は、麒麟・川島明さん。

ハッシュタグで成仏させる

―― 本書は「こういう場面でこういうことをしている人」というハッシュタグがたくさん出てきます。このたとえは、ふだんから周りをよく観察して、印象に残った場面や人から来ているんですか。

川島 基本的には、何か腹立つ人いるじゃないですか(笑)イラッとするけど怒れないとか、日常で思うことってあるじゃないですか。そういうのが自分の中にめっちゃたまっていますね。

―― 言葉の話にもありましたけど、日常の中のスルーできない引っかかり、ちょっとした違和感がたまってきて、それを表現していると。

川島 めちゃくちゃそうですね。たとえば、みんな日常の違和感をTwitterとかでつぶやくじゃないですか。「今日こんなことあって腹立った」とか。でも、言ってもどうにもならないじゃないですか(笑)何の解決にもならんというか、ダメな日記をつけている気がするんですよね。自分で見返したときに「親の前で声に出して読めるんか?」って。

 僕はそういうものにハッシュタグをつけてフィクションにすることで、成仏させているんですよ。Twitterでつぶやいたら物議を醸すようなことも、ハッシュタグをつけてフィクションにする。ただ、「ほんまに何これ?」とは思っているよ、っていう。

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写真は、「霜降り明星 せいやくん」のページ。

―― ネットの発言で、良くも悪くも一気に風向きが変わりますからね。思うことを露骨に吐き出すことなくフィクションに転換させるのは、賢い、新しいやり方ですね。

川島 日常の不満や違和感を垂れ流しちゃうのは、もったいない。この「タグ大喜利」って、けっこうな言葉を使っているものもあるんですけど、苦情が全然ないんですよ。たぶんこのハッシュタグが「この言葉はフィクションです」と知らせる役割を果たしているんじゃないかなと。漫才と一緒で「これはネタだ」と。見ている人も、ジャンル分けしてくれているんだと思いますね。

いま、自分にしかできないことを見つける

―― テレビ番組のリモート収録など、これまでと違う活動をするようになって困ったこともよかったこともある。でも、この状況を「新しいお題」と捉えている。そうした川島さんの記事を読みました。ハッシュタグをつけて成仏させる話と同じく、見事な発想転換ですね。いまは見通しが立たない不安定な状況ですけど、川島さんはどんな軸を持って活動していこうと考えていますか。

川島 芸人が家にいながらつながるリモートって、なかなかやりにくい。ただ、いままで雛段やスタジオでやってきたことをリモートに持ってくるから、違和感が生まれるという。じゃあ、リモートありきの番組、リモートありきの笑いに特化させたほうがええのかな、と思っているんですけど。

 

 僕の感想としては、それもちょっと限界があるかなと。バラエティ番組も出演者の顔が並んでやるんですけど、1秒でも遅れると全然笑いにならない世界なので。なかなかリモートっていうのは。

 でも、そんなこんなで数ヶ月経っていますからね。みんなそれぞれ面白い配信をやったり、笑いをつくったりして。いま、芸人が深海魚みたいになっているんですよね。酸素薄い、光の届かへんところで「どうやって生きよう?」という。そうすると、面白い照明つけたチョウチンアンコウみたいな芸人が出てくるんですよ。そういうスターが、この状況だからこそ生まれる面白い芸が、もう間もなく出てきそうな気はするんですけどね。

写真は、BOOKウォッチ編集部のリモートインタビューに答える麒麟・川島明さん。

 最近は芸人でもYouTuberが増えたんですけど、僕は配信の仕方もわからない。それでInstagramのライブを始めて、自分が作ったアナログなボードゲームを実況配信しているんですよ。「自分が楽しんでたらええわ」と思ってやっていたんですけど、16万回再生くらいになって。「タグ大喜利」を初めてやったときと同じくらい、「これちょっとおもろなりそう」という気がしています。

 この本もそういう配信も、今回の騒動がなかったら生まれなかったことだなと思います。漫才できない、劇場でみなさんに会えないのはもちろんすごくつらい。でも、「楽しみが先延ばしになっているだけや」と僕は思っているので。「来年あたりにみんなで会おうね」という話だと、僕は捉えているので。それまでの間に、いいお笑いをつくりたいなと思っています。

―― 川島さんらしいやり方を模索して、形にしているんですね。

川島 単純に、アナログだからできない、っていう(笑)子どもも小さいですし、配信中に子どもが泣いたら行かなあかんとか、そういう物理的な問題もあってできないんですけど(笑)みなさんも、この機会に自分にしかできへんことを見つけてほしいな、と思います。

―― オシャレな写真や動画を投稿するイメージのInstagram。そこに川島さんは「タグ大喜利」を投稿し、みんなが笑える空間をつくりだした。また、そのまま吐露すれば炎上もありうる日常の違和感を「タグ大喜利」でフィクションにした。本書は、川島さんの発想転換力にどんな状況も乗り切るヒントを学びつつ、お笑いのパワーで確実に元気になれる一冊!

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写真は、本書『#麒麟川島のタグ大喜利』(TJMOOK)の表紙。

■麒麟・川島明さんプロフィール

 1979年2月3日生まれ。京都府出身。97年、NSC大阪校20期生。99年、お笑いコンビ・麒麟を結成。ボケ担当。「M-1グランプリ」決勝に5回進出。「IPPONグランプリ」(フジテレビ系列)、「麒麟川島の#ハッシュタグバトルツアー」(読売テレビ)などでも大喜利のセンスを発揮している。

<この連載を読む ~麒麟・川島明に聞く~>

第1回「お笑いは心を救う! いまこそ『タグ大喜利』で笑おう!」
第2回「『みんな心のどこかで、笑いたい気持ちがある』」

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