2017年に岩波書店として初の直木賞受賞作となった佐藤正午さんの『月の満ち欠け』が、岩波文庫そっくりの装丁で2019年10月4日、刊行されると話題になっている。
岩波文庫はトルストイや夏目漱石などの古典的な文学作品を収録していることで知られる。『月の満ち欠け』は岩波文庫への収録も検討されたが、単行本の刊行から、まだ2年半ということで見送られた。
しかし、著者の佐藤さんの強い希望で、「岩波文庫的」という岩波文庫そっくりの装丁で刊行されることになった。「月」のタイトルにちなみ、ゴールドのデザイン(通常、近現代の日本文学は緑)が採用された。
佐藤さんは1955年生まれ。北海道大学を中退、郷里の長崎県佐世保市でホテル勤務のかたわら執筆を始め、84年すばる文学賞を受賞した『永遠の1/2』でデビュー。作品にもしばしば登場する競輪が趣味で、佐世保に住みながら執筆を続ける独特のライフスタイルでも注目された。プロットを何重にも構築する作風には定評があるが、その後、受賞にはあまり縁がなく、佐世保での単身生活を綴ったエッセイ集『ありのすさび』、『象を洗う』、『豚を盗む』、『小説家の四季』(いずれも岩波書店刊)などがカルト的なファンを獲得してきた。
しかしこの数年、野心的な作品を立て続けに発表、2015年『鳩の撃退法』(小学館)で山田風太郎賞、2017年『月の満ち欠け』で直木賞を受賞。賞にはもう縁がないとあきらめていた長年のファンを狂喜乱舞させた。
『月の満ち欠け』は、3人の男と1人の女の三十余年におよぶ人生と過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく作品。一読してもなかなか登場人物の関係を理解できない難解さで知られる。複雑で数奇な愛の軌跡は、「プロフェッショナルの仕事である」と選考委員たちを唸らせた。
長年エッセイを刊行してきた岩波書店との特別な関係が、同社初の直木賞受賞作を生んだとも言え、「岩波文庫的」という"特別待遇"も「佐藤さんなら」と納得されよう。
文庫化されポケッタブルになれば読み返しも楽になる。リーダブルで読みやすい作品だが、何か作者に騙されているような魔術的な叙述の構造を「今度こそ明らかにする」と一部のファンは意気込んでいる。
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