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全10巻で10万円超!ド迫力の経営指南書が売れ続ける理由

今から45年前、1975年に刊行され、今なお日本の経営者たちに読み継がれている本がある。伝説的社長専門コンサルタント・一倉定(いちくら さだむ)氏による「一倉定の社長学シリーズ」(2017年に〈新装版〉として復刻、(日本経営合理化協会出版局刊)刊)である。

全10巻、総額10万円を超えるこのシリーズが、刊行当時から今に至るまで、「経営のバイブル」として絶大な支持を集めている理由の一つが、一倉氏の説く「経営の原理原則」の普遍性である。

今回はこのシリーズの出版元である日本経営合理化協会専務理事で、20代の頃から一倉氏の薫陶を受けてきた作間信司氏にインタビュー。一倉氏の「社長学」が古びない理由、そしてドトールコーヒー創業者の鳥羽博道氏やユニ・チャーム創業者の高原慶一朗氏などそうそうたる経営者たちが一倉氏を頼った理由についてお話をうかがった。

■クライアントを容赦なく怒鳴りつける 伝説のコンサルタント・一倉定とは?

――2017年に復刻された「一倉定の社長学シリーズ」ですが、オリジナル版は45年前に刊行されたものです。今の読者から感想などが届いていましたら、どのようなものか教えていただきたいです。

作間:これはハガキを何通もいただいておりまして、おそらく企業の現場で指導をしている方だと思うのですが「刊行から50年近く経っているシリーズなのに内容が古びていない。経営の原理原則は今も変わっていないことを痛感した」という意見をいただきました。

このシリーズの刊行当時は銀行の金利が6%~8%くらいありましたから、その部分は引いて読まないといけないのですが、一倉さんが説いていた経営理念や経営原則は、現代でも十分通用すると思っています。

あとは、「オーナー企業の2代目、3代目に、ぜひ社長を継ぐ前に読んでほしい」というご意見もいただきました。このご意見には「まず大事なところをノートにまとめながら読んで、12年ごとに読み返すべき」とも書かれていました。

――12年というのはどういうことなのでしょうか?

作間:おそらくですが、干支の一回り分ということでしょうね。経済はそのくらいのスパンで好景気と不景気が巡ってくるので。

シリーズ全部となると膨大な量ですから、一度二度読んだくらいでは身につきませんし、読んだだけでは頭の中だけの学問になってしまいます。実際に経営をやってみて、体験を重ねたなかでもう一度読んでみると新しい気づきがあるということを言いたかったのではないでしょうか。

――なるほど。リーマンショックや東日本大震災、そして今回のコロナ禍のように、10年から12年ごとに経済に大きな影響を及ぼす出来事が起きるとされていますしね。

作間:まさしくそうです。もう一ついただいた感想を紹介しますと、今年の6月におそらく経営者の方からいただいた感想なのですが、いま経営者は倒産の恐怖でいっぱいなのですが、一倉先生の教えがあったから社員の生活を守ることができています、とのことでした。

というのも、一倉さんは「従業員の給料3年分をとりあえず貯めておけ」と、経営者に対して口を酸っぱくして言っていたんです。まあ会社によってはそんなに内部留保をため込んでいると、株主から配当に回せと言われてしまうのですが、とはいっても社員が一番ですからね。

―― 一倉先生の教えの普遍性はどんな点にあるのでしょうか?

作間:会社って、結局社長で決まってしまうんですよ。大手企業でサラリーマン社長が10年くらいやって交代していくようなところは別として、中小企業や中堅企業、特にオーナー企業で同族経営をしているような会社が成長できるか、生き残れるかというのは、やはり社長のものの考え方や行動次第なんです。「会社は99.9%社長で決まる」と一倉さんは言っていました。ここが一倉さんの教えの最大のテーマでした。

それと「お金」についてですね。会社は資金がショートしたら倒産してしまうのに、みんなお金に対してあまりにも知らなすぎるということで、原価計算や資金運用、経営計画などお金に関わることはこのシリーズではかなり詳しく書かれています。

社長の経営姿勢やお金周りの基本原則って、どんな時代でも、どんな仕事でも変わりません。その変わらない部分を教えていたのが一倉さんだったんだと思います。

――今お話にあった同族経営のオーナー企業についてなのですが、よく「三代目が会社を潰す」と言われます。これは本当なのでしょうか?

作間:それは本当だと思います。というのもどんな事業であっても、永遠に利益を出し続けられるわけではありませんから、ビジネス環境や消費者の行動様式、時代の価値観の変化に合わせて会社を常に作り替え続けないといけません。

具体的には新事業を立ち上げたり、既存の業態を捨てて新しい業態でチャレンジしたりといったことなのですが、創業者から二代目、三代目に経営が移ったタイミングで、創業者が立ち上げたビジネスの「賞味期限」が来る。「三代目が潰す」というのは、その時に会社の変革がうまくいかなかったということなんだと思います。特に今はビジネスのサイクルが早くなっていますから、三代目まで持たないことが多いのではないでしょうか。

――シリーズ第7巻の「社長の条件」にも、「経営は改革の連続」と書かれていました。

作間:おっしゃる通りです。新規事業を興すにしても、全部が全部成功するわけではありません。失敗する方が多い。だから、既存の事業がうまくいっている時から、種はまいておかないといけないのですが、これがなかなかできないんですよ。

―― 一倉社長学はドトールコーヒーやユニ・チャームなど名だたる企業の経営者たちが学んだとされています。彼らを惹きつけたものとはなんだったのでしょうか。

作間:組織論からお金の問題、上場経営にいたるまで、幅広く教えることができたというのが大きかったと思います。

また、ドトールコーヒーの創業者の鳥羽博道さんにしても、ユニ・チャームの高原慶一朗さんにしても、すごく勉強熱心な方だったというのが前提としてあるのですが、じゃあ彼らが一倉さんの何に惹きつけられていたのかというと、本気度とか真剣さの部分でしょうね。一倉さんと高原慶一朗さんの旅行に同行したことがあるのですが、二人ともご飯を食べている時でも仕事の話ばかりでしたから。

それとね、相手がクライアントだろうと何だろうと、少しでも甘いことを言うと「バカ野郎!」とものすごい勢いで怒るんですよ。もう本気で。だけど、そうやって本気で怒ってくれたりモノを言ってくれる人って、成功すればするほど周りにいなくなるじゃないですか。

――確かにそうですね。

作間:そんなに激怒したら相手だってプライドがあるわけで、いい気持ちはしませんから、離れていったクライアントも多いのですが、そうやって損得考えずにまちがっていることはまちがっているとはっきり言うところに信頼をおいていた方もいたんです。それが高原さんであり、鳥羽さんでした。

(後編につづく)

表紙
・一倉定とは?|「一倉社長学シリーズ」の賢い読み方《作間信司》https://youtu.be/KaeBOJmp3ds

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