業績がなかなか伸びず経営が苦しくなると、経営者の頭の中にチラつくのがリストラによる人件費の削減です。
しかし、人事戦略はこれからの会社が進むべき方向性そのものと直結する極めて重要な部分。無計画なリストラは企業の成長の足かせになる危険があります。
人事コンサルタントの林明文さんは、これまで1000社以上で人事戦略に携わり、人事管理の問題点と向き合ってきました。そんな林さんの新刊『企業の人事力』(ダイヤモンド社/刊)は、経営者のための“本格人事戦略本”。
林さんは、無計画なリストラを行ったり、余剰人員に無駄な役職を与える人事ばかりでは、企業は成長することができないと指摘します。
では、人事戦略を見直すためにどのような視点が必要になるのでしょうか。
■自社の人員構成は適正か?
人事の状況というのは、人事部が適切に機能しているかどうか、というミクロな話だけではなく、会社全体のマクロな視点も必要です。例えば「人員構成」もその一つ。
大手企業の代表的な人員構成は50代がやや多め、40代が極端に多く、30代は少なめ、20代は極端に少ないという構成です。これは理想とされる「緩やかな台形型」とは全く異なる「壺型」です。また、企業の活力を高めるには、適正な平均年齢を維持することが欠かせません。つまり適切な平均年齢とされる35歳前後で、人員構成が緩やかな台形であることが大事なのです。
構成が壺型であったり、平均年齢がどちらかに偏ったりしているということは、人材の質にムラが生じている可能性が高いということです。これを適正化するためには、経営者がモチベーションを高くし、イニシアチブを取って解決策を練るしか方法はありません。
■高齢社員の活性化と若手の育成が企業の成長を促す
企業の業績を伸ばすためには、社員能力の向上を目指すことが何よりも大切です。特に45歳以上の社員を再び活性化させることは、企業の成長には不可欠です。また、企業によっては優秀な若手社員を選抜し、次世代のリーダーを育てるという動きも見られますが若手社員の場合は人数が少ないので、全員を徹底して教育するのがよいでしょう。
経営改善のためには、全社員が一丸となって成長しなければいけません。林さんは、能力やモチベーションが欠如している社員に対しては厳しい指導が必要であり、時間外の活動によって積極的に自己研さんに努めることを「当たり前」と捉える文化が必要だと、厳しく言い放ちます。
無計画なリストラによる余剰人員の削減を行っても、社員の意識が変化しなければ意味がありません。そこで求められるのが経営者の強いリーダーシップに基づいた人事戦略であり、人事マネジメントなのです。
■経営者の人事・教育にもメスを
本書では、他の人事に関する書籍であまり触れられていない「経営者の人事制度」にもメスを入れています。「経営者の人事制度って?」と少し疑問に思うかもしれませんが、本書では、特に経営者教育が強調されています。
日本の経営者は内部登用が多く、“閉ざされた範囲内での競争”になりがち。そのため、業務全体を見られる視野を持っている人材が少なかったり、取締役に対する教育が十分でなかったりします。
人材育成や人事制度は、社員を対象に行われることが多いですが、日本においては取締役の教育や人事制度の強化・見直しを先行させるべきだと林さんは主張します。取締役は会社の業務執行に関する意思決定をする立場。責任は重大であり、経営者教育が企業の業績が伸びる原動力となるのです。
1000社という膨大な企業の人事の現場を見てきただけあり、かなり厳しい指摘も書かれている本書ですが、人事評価やリストラだけでなく、生涯収入の考え方や人事改革の方法など、人事に関する幅広い知見を得ることができるはずです。
安易なリストラは経営改善と安定した成長にはつながりません。また、人事戦略が今後の企業の未来を握っているということは、経営者自身も承知しているはず。人事管理に問題を抱えている企業の経営者や人事担当者にとって、林さんの指摘は非常に参考になるのではないでしょうか。
(新刊JP編集部)
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