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学校菜園で作ったジャガイモの食中毒が多い訳

植物はなぜ毒があるのか

 本書『植物はなぜ毒があるのか』(幻冬舎新書)は、植物の毒をテーマに人間とのかかわりについて書いた本である。実にさまざまな植物が毒をもっていることが分かり、平和で牧歌的なイメージの植物への見方が変わるかもしれない。

植物の毒のマイナスとプラス

 著者は田中修さんと丹治邦和さん。田中さんは京都大学農学部博士課程修了の農学博士。甲南大学名誉教授。専門は植物生理学。『植物はすごい』、『ありがたい植物』、『植物はおいしい』など植物関連の多くの著書がある。丹治さんは神戸大学農学部卒。東京大学農学系研究科修士課程修了。弘前大学大学院医学系研究科脳神経病理学講座助教。

 本書の構成は以下の通り。

 第1章 注意! 有毒物質をもつ身近な植物
 第2章 人間以外の生き物に毒になる物質
 第3章 毒が薬にも! 植物から生まれた薬
 第4章 上手に摂ると役に立ってくれる植物たち
 第5章 薬の効果を無効にしてしまう植物
 第6章 長寿と植物~ガン、認知症と植物の話

 植物の毒の危険性だけでなく、その有用性を含めて多角的に解説している。

食中毒トップのジャガイモ

 第1章の冒頭で紹介しているのが、過去10年間の有毒植物による食中毒発生状況。厚生労働省がホームページで注意を喚起している。患者数の合計780人のうち346人ともっとも多かったのがジャガイモだ。ジャガイモによる食中毒は毎年学校で起こっており、ジャガイモの食中毒事件の9割は学校菜園で起こっている、と指摘する。

 ジャガイモには「ソラニン」という有毒物質が含まれている。私たちは「ジャガイモの芽には、有毒な物質が含まれている」ということを知っているので、必ず芽を取り除いて調理する。学校では芽を取り除かなかったのか。

 実は有毒物質は芽だけでなく、表皮が緑色になった部分や未熟な小さなジャガイモにも含まれているという。「せっかく子どもたちが栽培したものだから、捨てるのはもったいない」との思いから、調理に回されることがあるかもしれない、と見ている。

ジャガイモの食用部分は茎だった

 では、なぜ学校菜園では、そうしたジャガイモができてしまうのか。「芽かき」と「土寄せ」という大切な作業がおろそかになっているのでは、と推理している。

 種イモから芽が出ると、大きくて元気な1、2本を残して他は取り除く。これが「芽かき」だ。学校菜園ではこの作業がなおざりにされがちなので、小さなイモが多くなる。また毒は表皮の内側にあるので、小さなイモほど毒の割合が増える。

 また畝に土を寄せる作業をしないと、イモの一部に太陽が当たり、表皮が緑色になる。そこに毒がつくられる。ジャガイモの食用部分は根ではなく、肥大した茎なのだ。だから、光が当たると緑色になるということを知り、驚いた。

 「暗い土から光の当たる外へ出るということは、動物たちに食べられるという危険な可能性が増大します。ですので、食べられるのを防ぐために、緑色の部分には有毒な物質が含まれてくるのです」

 ならば、毒をつくらないジャガイモはできないのか、という発想で、2019年、遺伝子操作の結果、完成したという。貯蔵しても芽が出ないという利点もあった。種イモにはならないが、長期保存に向いているという。

「毒薬界のスーパースター」トリカブト

 このほかにスイセン、イヌサフラン、アジサイ、スズランなど身近な植物の毒を紹介している。「毒薬界のスーパースター」と言われるトリカブトについて興味深いことが書いてあった。

 1986年に発生した「トリカブト保険金殺人事件」についての推理だ。夫が妻に保険金をかけてトリカブトの毒で殺したとして有罪になった(冤罪を主張し、獄中で病死)。ふつうトリカブトの毒を飲むと数分で死ぬ。しかし、この事件では1時間40分は何事もなく行動していたので、当初夫の犯行は疑われなかった。

 解剖の結果、遺体の血液からトリカブトの毒アコニチンとフグの毒テトロドトキシンが検出された。二つの毒は逆の働きをする。打ち消し合った分、時間がかかった、と推理している。

スイセンの毒からアルツハイマー病の治療薬

 毒のことばかりに触れたが、スイセンの毒「ガランタミン」がからだの中の「アセチルコリン」を保つ働きがあり、アルツハイマー病の治療薬として承認されているとか、トリカブトの毒は漢方薬に使われているなど植物の毒由来の薬についても詳しく書いている。

 また、コーヒーやグレープフルーツ、ニンニク、オリーブの効果も紹介している。多くの植物が出ているので、自分の興味のあるところを読めばいいだろう。薬との飲み合わせの悪い植物など、最新の医学情報を押さえているので有用だ。

  
  • 書名 植物はなぜ毒があるのか
  • サブタイトル草・木・花のしたたかな生存戦略
  • 監修・編集・著者名田中修、丹治邦和 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2020年3月25日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・235ページ
  • ISBN9784344985858
 

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