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豆腐や納豆を食べる本当の理由

マメな豆の話

 正月のおせち料理の定番の一つに黒豆があり、2月の節分には豆まきをする。3月(9月)のお彼岸には小豆餡で作ったぼたもち(おはぎ)が先祖への供え物。さらには「四月豆」はソラマメの別称などと、豆との縁は1年を通して切れることがない。その割には豆について知られていないことが多く、「枝豆と大豆は同じもの」などというマメ知識が、なにかの拍子に繰り返してクローズアップされ関心をよんだりする。本書『マメな豆の話』(株式会社KADOKAWA)には、日本でばかりか世界でも人間の食生活を支えている豆食文化をさぐり、その多彩さを伝えている。

18年ぶりの復刊

 本書の親本は2000年4月に平凡社から新書で刊行され、以来、豆食文化についてのスタンダード本とされたが長らく絶版になっていた。近年は、折からの健康ブームで豆への関心は高く、タイムリーな復刊(文庫化)といえそうだ。

 著者の吉田よし子さんは1932年生まれで、東京大学農学部卒業。旧農林水産省農業技術研究所の元技官で、66年から84年までフィリピンに住み、熱帯の食用植物の調査に従事した。著書には『香辛料の民族学―カレーの木とワサビの木』(中公新書)『カレーなる物語』(ちくまプリマーブックス)『からだにやさしい野菜物語』(幻冬舎文庫)などがある。

 本書を読み進めると、身近だと思っていた豆について意外に知らないことが多かったことを思い知らされる。たとえば「豆を作る植物の数」。これがなんと1万8000種類もあり、マメ科のグループは植物の世界ではキク科とラン科に続く3番目に大きなグループなのだ。なかには、70メートルを超えるような大木もあるというから驚きだ。

マメ科、一番多様な有毒成分

 豆が健康ブームで注目されている利点の一つは、穀類に不足している必須アミノ酸を持っていることだ。著者の説明によれば「動物が自然界に存在する植物を食べて生きていくには、穀類と豆の両方を食べないとバランスのとれた食事をしたことにはならない」。穀類に比べると豆はその収量が少なく、コスト面で割高なのだが、穀類の10~20%の摂取で必須アミノ酸をバランスよく摂れるという「すばらしい」性質がある。

 少量で大きい効果があるだけに、豆は人間ばかりでなく他の動物にとっても狙いの対象。豆の側でもただ食べられているばかりでは種が途絶えてしまうから防御策を発達させる。豆が堅い皮に覆われていたり、生のまま食べると妙な味やにおいがあるのはそのため。なかには「身体に悪い成分」が含まれている場合もある。

 その「身体に悪い成分」には、シアン配糖体(青酸化合物)やアルカロイド、甲状腺腫誘発物質などの有毒物質成分も含まれる。マメ科の植物は、植物の世界では一番多様な有毒成分も持つという。その規模はというと、現代でもまだ「未知の薬品や、将来私たちが必要になるかもしれない、さまざまな成分が見つかる可能性がある」ほどなのだ。

大豆は食べるものじゃなかった!?

 豆のなかで最もわたしたちになじみのあるものは大豆だろう。豆腐や納豆、みそやしょうゆも大豆から作られている。こうした加工以外に炒ってそのまま食べたり、あるいは煮豆、きな粉などの食べ方があるが、全体としてみると非常に少ないという。というのも実は大豆も、有毒成分は含まれないものの、食用に適さないふりをするつもりか、料理をすると特有の豆臭を発するほか、普通に煮ただけでは消化吸収が悪く腸内に大量のガスを発生させる働きを持っているからという。

 国連の「世界の豆類の生産状況」という統計には大豆が含まれていないという意外な事実があるのだが、これは、大豆が世界的にはタンパク源の食用としてではなく、油脂源の「油糧種子」としての存在が重要になっているから。大豆を食用として消費するには、先にふれたように豆腐や納豆あるいはみそ、しょうゆなどに加工する技術が必要であり、こうした事情が、歴史的に大豆を食用とする地域が東および東南アジアを越えて拡大しなかった理由という。

 正月の黒豆もそうだが、多くの豆は、食べるためには、水に長く浸したり長い時間煮込むようにする必要がある。おせち料理の黒豆は「邪気を払う」とか「災いを防ぐ」「不老長寿」などの願かけがあるとされるが、本書で豆のことを知って、その理由が分かった気がする。

  • 書名 マメな豆の話
  • サブタイトル世界の豆食文化をたずねて
  • 監修・編集・著者名吉田よし子 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年11月22日
  • 定価本体920円+税
  • 判型・ページ数文庫・288ページ
  • ISBN9784044004231
 

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