2015年国勢調査では、男性の生涯未婚率は24.2%、女性は14.9%。男性の4人に1人、女性の7人に1人は結婚歴がないということだ。さらに、若い未婚男性の7割、未婚女性の6割が「交際相手なし」だという。その一方で若い男女の9割が「いずれは結婚したい」と考えている。つまり、「結婚したいのに、できない人」が増えているのだ。この「未婚化」を分析したのが本書『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)だ。
著者の天野馨南子さんは、東京大学経済学部を出て、1995年、日本生命保険相互会社に入社。現在はニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員。専門は少子化対策で内閣府少子化対策関連有識者委員をつとめている。
第1章「結婚願望がないのか、叶わないのか」、第2章「『結婚の壁』のリアル」、第3章「親子同居という『甘い罠』」、第4章「"毒親"が未婚化を加速させる」、終章「考えるべきは『親亡きあとの子の幸せ』」の5つの章からなる。
著者はシンクタンクでデータを扱っている人だけに、「思い込みの罠」を戒める。1~4章の冒頭に結婚や少子化にかんする「よくある誤解」を掲げ、データに基づいて誤りをただしていくという構成になっている。
たとえば第1章の「よくある誤解」とは......。
・未婚化は、男性よりも女性のほうが深刻だ ・夫婦が産む子どもの数が減ったことが、少子化につながった ・「結婚したくない」「子どもは欲しくない」と考える若い男女が増えている
これらはいずれも間違っている。冒頭の2015年国勢調査の通り、男性の生涯未婚率は24.2%、女性は14.9%。女性に比べて圧倒的に男性の生涯未婚者が多い、と指摘する。
また、夫婦の持つ子どもの数はもう30年以上もの間、約2人で変化がない。日本の出生率の低下の大きな原因は「夫婦の子どもの数が減ったこと」よりも「未婚者が増えたこと」だと、説明する。3つ目の論点についてもデータを示し、反駁している。ここでいうデータとは、国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」「人口統計資料集」、厚生労働省「人口動態調査」などから著者が作成したものだ。
第2章では、「お金がないから結婚できない」という通説が未婚の主たる原因とは説明しにくいことを示し、むしろ男女ともに交際しないことが大きな要因であることを明らかにした。そして第3章では、未婚者の多くが親子同居を50代になるまで続けるというデータを示し、親子同居が「非交際化」「未婚化」の元凶になる、と警告している。
さらに第4章「"毒親"が未婚化を加速させる」では、40代未婚者の大半をしめ、最大派閥といえる「子ども部屋おじさん」つまり、親と同居する中年男性の実態に迫る。
著者はまず、20代後半がターニングポイントであることを示している。この期間を逃すと未婚男女数のバランスは大きく崩壊し、結婚活動が難関になるのだ。
「子どもより親のほうが、子どもと長く暮らしたがる傾向にある」「とくに母親の、息子に対する結婚希望年齢が遅い」というデータがあり、子どもが流されている、と見る。
天野さんは、親たちの「妻さえ若ければ、孫の顔が見られる」という考えは幻想だと退ける。ここでも先のデータから天野さんが作成したグラフを示す。男性の初婚年齢が30~30.5歳の場合、出生率は1.7なのに対し、31歳になると1.5まで減少する。出生率には女性よりも男性の初婚年齢が影響するのだ。
また男性も女性も自分の年齢が上がれば上がるだけ、結婚相手の年齢も同じ強さで上昇する。ほぼ2歳差で両者は強く連動しているという。
天野さんは1990年代以降、「モンスターペアレント」の台頭とともに未婚化が急増したと見ている。親による過干渉の長期化、とくに母親による「理想」の押しつけが原因だ。「毒親問題は、日本の未婚化問題を考察するうえで、看過することのできない大きな問題」と結んでいる。
本書には通説や思い込みの類はまったくない。あくまでもデータに基づいて理詰めで説明する。まえがきで天野さんは90年代に流行った「高齢出産のメリット」という言葉に踊らされ、取り返しのつかない悔しい思いをしたことを明かしている。そこから「思い込みの罠」を子どもの世代には引き継がない、と決意したという。
BOOKウォッチでは、人口減少について『未来の年表』、『未来の年表2』、『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること』(いずれも講談社現代新書)などで紹介している。
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