読むべき本、見逃していない?

失踪したマスコットは、どんな世界を見た?

夜が暗いとはかぎらない

 寺地はるなさんの『夜が暗いとはかぎらない』(ポプラ社)は、大阪市近郊にある暁町を舞台に13の物語が展開していく。「あかつきマーケット」のマスコット「あかつきん」という不思議な存在を軸に、主人公一人ひとりの物語がイキイキと描かれている。

マーケットのマスコットが失踪する

 「あかつきマーケット」は、「平べったい、体育館みたいな建物の中に鮮魚店やらクリーニング店やらパン屋やらがおよそ十以上もひしめきあっている」。芦田は、その中のフラワーショップで十年前にパートをはじめたが、その少し前から来客数は減少しつつあった。周囲に新しいマンションができ、スーパーマーケットやコンビニがオープンした時期だ。

 6年前、そんな「あかつきマーケット」をもりあげるべく「マスコットキャラクター応募コンテスト」が企画された。いまは亡き夫の勧めで応募したのだが、芦田のデザインした「あかつきん」が選ばれた。「あかつきん」は、「あかつきマーケット」に住む妖精、という設定になっている。

 本書の表紙のイラストを見てほしい。「あかつきん」は「ねずみだか猫だか犬だかさっぱりわからない生きもの」であり、「名前が赤ずきんみたいだから」という理由で赤い頭巾をかぶり、赤いスカートをはいている。

 物語は、謎の事件からはじまる。昨日開催されたあかつきまつりで、あかつきんが急に暴れ出し、そのまま失踪したのだ。ところがその後、町のあちこちに出没し、ゴミ拾いをしたり、転んだ子を助けたりしているという。さらに、あかつきんのしっぽを掴むと幸せになれるらしい、という噂まで広まっている。

くりかえす朝と夜

 本書は、1つの物語に登場した主人公以外の人物が、次の物語の主人公になる。物語が進むにつれて、全体像が立体的に見えてくる構成になっている。

1 朝が明るいとはかぎらない
リヴァプール、夜明けまえ/蝶を放つ/けむり/赤い魚逃げた/声の色/ひなぎく/消滅した王国/はこぶね
2 昼の月
グラニュー糖はきらきらひかる/青いハワイ/バビルサの船出/生きる私たちのためのスープ
3 夜が暗いとはかぎらない

 物語を重ねていき、あかつきんの失踪から一年後、いよいよあかつきマーケットが閉店する時が来る。ここにきてようやく、あかつきん(の中の人)の正体、失踪した事情が明かされ、物語のはじまりとおわりがつながる。町を歩いたこの一年で、あかつきん(の中の人)にどんな変化があったのか――。

 本書を読み、たとえば店員だったり道ですれ違う人だったり、自分と直接関わりのない人やほんの少し離れた場所で、数々のドラマがいままさに進行中なのだと、当たり前のことではあるが改めて実感した。一見無関係に見える人同士の人生もどこかでつながっていて、その連なりがこの先も延々と続いていくのだ。

 最後に、本書の帯にある「奇跡が起きなくても、人生は続いていくから。」のコピーとともに、印象的な箇所を引用したい。

「朝が明るいとは限らない。どんなことがあっても、時間がめぐれば朝はかならずやって来てしまう。ままならぬ思いや不安を抱えて迎える朝はたくさんある。生きていれば、いくたびも。」

 寺地はるなさんは、1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞し、翌年デビュー。BOOKウォッチでは、寺地さんを含む女性作家6名による短編集『リアルプリンセス』(ポプラ文庫)を紹介済み。

  • 書名 夜が暗いとはかぎらない
  • 監修・編集・著者名寺地 はるな 著
  • 出版社名株式会社ポプラ社
  • 出版年月日2019年4月19日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・319ページ
  • ISBN9784591162743

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