東京五輪が近づいてきた。パラリンピックへの関心も盛り上がりつつある。テレビではすでにWOWOWがパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』を長期企画で放送中だ。本書『WHO I AM――パラリンピアンたちの肖像』(集英社)は、そこに登場した選手に改めて迫るノンンフィクションだ。
この番組はWOWOW とIPC(国際パラリンピック委員会)が共同で立ち上げたもの。リオ大会が開催された2016年から、東京大会まで5年にわたり、世界のトップパラアスリートに迫るという大型シリーズだ。
一体どうやって番組をつくるか。制作陣も最初は手探りだったようだが、選手たちが発する強烈な個性とエネルギーに圧倒され、自然に方向性が固まったという。
本書では、内戦で足を失った選手、宗教上の制約で女性が活躍できない国に生まれたアスリート、盲目サッカー選手、四肢を失ったフェンシング選手など多彩な選手たちが登場する。いずれも逆境にもめげず、パラスポーツに挑戦し、不可能を可能にした人たちだ。
「私が速いのは、私が幸福だから」 「オレはこのスポーツを通して、ノーマルに生きることができるようになったんだ」 「私はあの事故を"チャンス"と名づけました」 「ボールを蹴りたい。試合に出たい。僕は、それで生きているんだから」 「私は、ただのいい子じゃないのよ」
それぞれの言葉はシンプルだが、その裏には血のにじむような努力と強い思いがほとばしる。タイトルの「WHO I AM」は「これが自分だ!」という意味だという。
まったく知らなかったが、南アフリカのナタリー・デュトワ選手は、元々オリンピックで有望視されていた競泳選手だった。ところが不慮の事故で左足の膝から下を切断。それでもへこたれずトレーニングを再開して障がい者スポーツ大会に出場。やがて健常者の大会にも復帰し2003年のアフリカ選手権では800メートルで優勝。北京五輪ではパラリンピックとオリンピックの両方に出場し、パラリンピックでは自由形、バタフライなどで5つの金メダルを獲得したという。
本書ではこのナタリー・デュトワ選手を目標として練習に励み、ついにロンドンパラリンピックの100メートル自由形で彼女に勝ったオーストラリアのエリー・コール選手のことが詳しく紹介されている。がんで幼少の時に片足を失った。水泳を始めてから数週間は、円を描くようにしか泳げず、まっすぐ泳ぐのに苦労した。そんな少女が、金メダルをつかむまでの物語だ。義足の堂々とした水着姿が神々しい。
編著者の木村元彦さんはスポーツを中心とするノンフィクションライター。『オシムの言葉』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。在日朝鮮人のサッカーを扱った『無冠、されど至強』(ころから刊)などの著書もある。
他の4人の筆者のうち、大泉実成さんは『説得 エホバの証人と輸血拒否事件』で講談社ノンフィクション賞受賞。黒川祥子さんは『誕生日を知らない女の子 虐待──その後の子どもたち』で、開高健ノンフィクション賞を受賞している。
BOOKウォッチでは関連で、『いま、絶望している君たちへ――パラアスリートで起業家。2枚の名刺で働く』(日本経済新聞出版社)、『切断ヴィーナス』(白順社)なども紹介している。
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