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三つの「バグ」が戦前の日本を破滅に導いた

  • 書名 暴走する日本軍兵士
  • サブタイトル帝国を崩壊させた明治維新の「バグ」
  • 監修・編集・著者名ダニ・オルバフ 著、長尾莉紗・杉田真 訳
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2019年7月19日
  • 定価本体2400円+税
  • 判型・ページ数四六判・464ページ
  • ISBN9784022516169

 日本はなぜ太平洋戦争に突入していったのか? しばしば繰り返される問いに対し、本書『暴走する日本軍兵士――帝国を崩壊させた明治維新の「バグ」』(朝日新聞出版)は、明治維新にまでさかのぼって「答え」を見つけようとしたものだ。

 日本軍に内在した問題を「バグ」と命名し、それらが暴走、最終的に「システムエラー」を起こして戦争拡大を招いたとする。近現代史をロングスパンで、かつコンピュータ用語で解析したところが目新しい。

数か国語の史料を参照

 著者のダニ・オルバフさんは1981年、イスラエル生まれ。ハーバード大学で博士号(歴史学)取得。専門は軍事史、日本及び中国近現代史。イスラエル軍情報部に勤務後、テルアビブ大学、東京大学、ハーバード大学で歴史学と東アジア地域学を学ぶ。現在はエルサレム・ヘブライ大学アジア学部の上級講師。

 400ページを超える本書を手に取って、誰もが驚嘆するのは「注」の分厚さだ。なんと73ページもある。ざっと1300項目以上が並ぶ。壮観としか言いようがない。本書は4か国の公文書、書簡集、供述書、回想録などのほか、日本語、英語、中国語、ドイツ語、ロシア語の一次史料を基に執筆されたという。欧米の研究者には、ドナルド・キーンさんに代表されるように、博覧強記の多言語能力者が少なくないが、オルバフさんもおそらくその一人なのだろう。

 とはいえさすがに19世紀の日本語史料にはお手上げだったという。これらは古語が使われ、殴り書きで綴られているものが多かったため、解読が難しかった、と振り返っている。多くの日本人研究者のサポートを得たことに感謝を記している。

反乱が美化された背景

 そうした協力者の一人として名を挙げられているのが、加藤陽子・東大教授だ。『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮社)のベストセラーで知られる。加藤さんは同書で、「15年戦争」とも呼ばれ、1931年の満州事変あたりから書き始められることが多い先の戦争について、淵源をさかのぼり、日清、日露、第一次世界大戦から説き起こしていたが、オルバフさんはさらにルーツをたどり、何と幕末の「志士」に行きつく。

 江戸幕府は1860年代に、「志士」たちの結成した革命連合によって倒された、このような従順でない武士たちのイデオロギーと組織形態は、何世代にもわたって日本の反抗的な将校に受け入れられた、とみなす。

 そして、大日本帝国軍は従順な軍隊ではないということを強調する。近代史上屈指の反抗的な軍隊であり、再三にわたり、クーデター、暴動、政治家の暗殺を引き起こし、将校が政府や軍の最高司令部が下した命令に抵抗し続けたし、中堅参謀が上官に逆らうことで国家政策を変えさせた「伝統」を持つ。1930年代に膨張した帝国陸軍の反逆精神の根底にあるのは、幕末の志士以来の「深い根を持つ歴史パターン」だというわけだ。

 そこでは「純粋な動機」が評価され、「真摯な」愛国心が動機である限り、暴力も正当化され、美化されたと分析する。

軍の「革新派」が跋扈できた事情

 本書でオルバフさんは「三つのバグ」を説明している。

 第一のバグは天皇制の本質と結びついていた。明治の元勲たちは、新国家のイデオロギーとして天皇優位のイメージを維持していた。その結果、反体制派はいつでも、自分たちの方が天皇の隠された意向を体現していると主張することができた。第二のバグは、富国強兵から生まれた。軍部の反体制派はしばしば独自に他国への未承認の軍事行動をとった。閔妃殺害、張作霖爆殺・・・結果的にそれが成功しておれば、政府は彼らの「功績」を取り消すことができなかった。そしてこの領土拡大路線には終わりがないこと、常に帝国のさらなる拡大を求めざるを得ないことが第三のバグになった。

 やや荒っぽくまとめれば、こうした三つのバグから日本は破滅の道を進んだ、というのが本書のあらましだ。何しろ、とっくに日本人でも忘れてしまったような歴史や、歴史上の人物が盛んに出て来る研究書なので、詳しくは本書を読んでいただくしかない。

 「バグ」や「システムエラー」という用語は歴史書としては目新しいし、軍の「革新派」が跋扈できた事情なども、本書の説明ですんなり頭に入る。さすが新時代の現代史の研究者だなと思わせるところがある。

 加藤さんの『それでも・・・』が日本軍の戦争準備と拡大方針を歴史的に説明したのに対し、本書はいわゆる「青年将校」「参謀」らを支えた「気風=スピリッツ」を重視しているように感じられた。ゆえに「志士」まで遡行する。

 そういえば立場は異なるが、赤軍派の塩見孝也元議長が『赤軍派始末記』(彩流社)の中で、赤軍派には「幕末の志士、戦前の右翼の青年将校、特攻隊などと似た体質があった」と自己分析していたことを思い出した。

 とにかく本書は、同世代の日本の歴史研究者にとっては刺激になる一冊と言えるのではないか。原著は英語なので、海外でも研究者に読まれていることだろう。

 本欄では『なぜ必敗の戦争を始めたのか――陸軍エリート将校反省会議』(文春新書)なども紹介している。

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