本書『無実の君が裁かれる理由』(祥伝社)は、「青春&新社会派ミステリー」と銘打ち、4つの話で構成されている。「冤罪」がテーマというので少し身構えたが、読み進むうちに爽やかな気分で満たされた。
主人公の牟田幸司は、大学法学部の2年生。ある日突然、同級生へのストーカー行為で告発され、学校で孤立する。アルバイト先のイタリアンレストランのオーナーシェフ、祁答院(けどういん)依子に相談すると、同じ大学の心理学科4年の遠藤紗雪を紹介される。紗雪は冤罪を研究しているという。
ストーカー被害を受けた女子学生の友人が入手した牟田の画像が決め手と聞き、「顔の錯誤は簡単に起きるから、何の根拠にもならないよ」と彼を力づけ、真相究明に乗り出す。
紗雪のおかげで疑いも晴れ、牟田は女子学生とともに真犯人を捜しに動き始めるが、二人の前に捜査二課の刑事が現れる。女子学生が振り込め詐欺に関与している疑いがあるというのだ。彼女の学生証が利用されていた。学生証の盗難がきっかけと分かり、彼女を襲った犯人も逮捕され、一件落着と思った矢先、環美兎という女性が現れ、「遠藤紗雪の父親は人殺しなんだよ」と告げる。ここで第1話「無意識は別の顔」が終わる。
以下、第2話「正しきものは自白する」では「自白強要」、第3話「痴漢事件とヒラメ裁判官」では「作為」、第4話「罪に降る雪」では「悪意」と、それぞれ冤罪を生む原因をテーマに物語は進行する。
遠藤紗雪はなぜ冤罪にこだわるのか。牟田の父は裁判官で、かつて紗雪の父の裁判に携わったことなどがしだいに明らかになる。そして環美兎との関係も。
4つのテーマ、エピソードを回しながら、紗雪と美兎の関係を少しずつ深掘りにしてゆく構成が巧みだ。そして父の一言で、牟田は紗雪の父の事件を調べ始め、真相が明らかになる。事件を通して、牟田が成長してゆく様子が爽やかに描かれている。「青春&新社会派ミステリー」という所以だ。二人の女性の存在も陰影を与えている。このまま4話のテレビドラマで見たいと思った。
また祁答院のレストランは止まり木のような存在で、身近にあればうらやましいと思った。ドラマにしたら、この役は誰がふさわしいかと想像しながら楽しく読んだ。エピローグで牟田がホタルイカのフリットを食べ、「身の甘さと肝のほろ苦さ」を味わっている。甘美にしてほろ苦いもの、それがまさに「青春」に違いない。
著者の友井羊さんは、2011年、「僕はお父さんを訴えます」で第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞してデビュー。14年、「ボランティアバスで行こう」が「SRの会」13年ベストミステリー国内第1位に選ばれている。
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